先進国で初めて事実上の債務不履行(デフォルト)に陥ったギリシャ。金融市場は与党・急進左派連合の瀬戸際戦略に翻弄され続けているが、安全資産にマネーが逃避する「リスクオフ」の“火種”は他国でもくすぶり始めた。ギリシャショックの深層と共に、次の危機シナリオを追った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子、鈴木崇久、竹田孝洋、山口圭介)
「リリーフ・ラリーの準備をしていたのに、ギリシャについてはもはや何を信じればいいのか」──。7月2日朝、メガバンクの市場部門幹部はそんな疑心暗鬼を抱えて、一夜にして急変した金融市場への対応に忙殺されていた。
リリーフ・ラリーとは、最悪期を脱した安堵(リリーフ)から相場が急反騰することを指すが、この場合の最悪期は、破綻の危機にひんしながら一向に進展しなかったギリシャ債務危機。それが、ギリシャ政府の大幅譲歩によって解決の糸口が見つかったとの観測が強まったことで、この日の日経平均株価は大幅続伸が期待されていたが、それはぬか喜びだった。
市場関係者の疑心暗鬼を理解するには、まず最近のギリシャ情勢を知る必要があるだろう。
そもそも、債務が膨れ上がってデフォルト(債務不履行)の瀬戸際に立たされていたギリシャでは、借金を踏み倒したい与党・急進左派連合のチプラス政権と、支援する代わりに緊縮策を迫る欧州連合(EU)などの債権団が激しく対立してきた。
どちらも一歩も引かず、“チキンレース”の様相だったが、まさに崖に転落する間際で、チプラス首相が6月30日の債権団への書簡で、緊縮策の大半を受け入れる方針を伝えていたことが明らかとなり、市場は好感した。冒頭のメガバンク幹部もリリーフ・ラリーを期待したのだが、直後のテレビ演説で一転、チプラス首相が債権団との全面対決の姿勢を打ち出したため、市場が混乱したのだ。
ここに至るまでの1週間でも、世界の金融市場はチプラス首相に翻弄され、ジェットコースターのように乱高下しており、市場からは「もうギリシャにはうんざり」との不満が聞こえてくる。
具体的には、6月27日、まとまるとみられていた両者の交渉が決裂すると、チプラス首相は突如、債権団の緊縮策の受け入れの是非を問う国民投票を7月5日に実施するという奇策に出た。
交渉は合意すると楽観視していた金融市場にとって、それは完全に予想外。欧州債務危機の再燃が意識されたことで投資家の心理が悪化し、週が明けた6月29日は安全資産に資金を移す「リスクオフ」の流れが一気に加速した。金融市場は世界同時株安の様相を呈し、日経平均は前日比596円安と今年最大の下げを記録した。
さらに30日には、国際通貨基金(IМF)からの融資を期限までに返済できなかったことから、先進国では初めて事実上のデフォルトに陥った。しかも、国内では“預金封鎖”という禁じ手まで繰り出し、市民生活を直撃している。まさに激動の1週間だった。
そもそも、「チプラス首相が率いる急進左派連合は、破天荒で理想主義者の素人政治集団であり、政治エリートが支配するEU政治の中では孤立していた」。第一生命経済研究所の主席エコノミスト、田中理氏がそう語るように、両者の間には深い溝が横たわっており、ギリシャ問題はしばらく予断を許さない情勢が続きそうだ。(※7月6日朝の速報によると、国民投票では財政再建策への反対派多数が確実となった)
それでも、ギリシャ政府債務の約80%はEU、IMF、欧州中央銀行(ECB)が保有していることなどもあり、世界経済への影響は限定的との見方が大半を占める。