●中国やウクライナのリスクオフ要因と“共振”すると大混乱
こうした見方にメガバンク首脳は「金融の世界では思わぬところからほころびが出て、不測の事態をもたらす」と警告する。実際、大規模なリスクオフ・イベントがギリシャ危機と同時発生する可能性が高まっている。
例えば、財務省と金融庁と日本銀行の3当局間では、29日朝、担当者が集まって、ギリシャ情勢が金融市場に与える影響などについて情報交換が行われた。実は日本の当局がギリシャと共に警戒していたのは、中国だった。
野村證券のチーフ為替ストラテジスト、池田雄之輔氏も「グローバル経済へのリスクという意味では、上海株式市場が気掛かりである」と指摘する。
バブル化がささやかれていた上海総合指数が急落しており、6月下旬までの2週間で2割も落ち込んでいるのだ。6月27日に緊急の追加金融緩和に踏み切ったにもかかわらず、相場の下落が止まらなかった。
同市場が明らかに過熱する前の水準まで調整するとすれば、今年1~2月の平均水準まで、あと2割程度の下落余地がある計算になるという。「上海市場はあくまで個人投資家の市場であり、グローバル市場への直接的な波及は小さいものの、マインド悪化を通じて中国景気の下押しに作用することが懸念される」(池田氏)。
中国の株式市場の下落は過去、経済全体に影響を与えることはなかったが、足元では実体経済面でも成長の減速を示す指標が増えており、メガバンク幹部は「昨年と比べて、日系企業の中国での為替取引は3~4割も減っており、実体経済は想像以上に減速している印象だ」と明かす。
中国の想定外の景気減速が世界的なリスクオフ要因として急浮上しており、ギリシャ危機と“共振”するようなことがあれば、世界的なリスクオフが急加速して、金融市場は大混乱に陥るだろう。
それだけではない。火種はギリシャ以外の欧州にもある。
英系投資顧問、スプリングのマネジャーで、ロシアにおいてグローバルマクロ戦略のファンドを運用する塚口直史氏は「ギリシャの陰に隠れて大きな問題と認識されていないが、ウクライナの債務危機は早晩、欧州発の金融恐慌を誘発する火薬庫になりつつある」と警鐘を鳴らす。
ウクライナ政府は向こう4年間で153億ドルの債務削減を要求しており、塚口氏は「ウクライナ危機→オーストリア・イタリアの銀行信用リスク上昇→(金融システム不安などによる)欧州債務危機」の連鎖シナリオを描く。
ギリシャショックの実体経済への波及は限定的とされる南欧諸国でも依然として火種はくすぶる。「ギリシャ問題は前哨戦であり、スペインとポルトガルの選挙において反緊縮政権が誕生した場合、その問題の厄介さはギリシャの比ではない」(外資系証券アナリスト)として、反緊縮政党の台頭により、南欧諸国がリスクオフの震源地になるとの見立てだ。
確かに、スペインの急進左派・ポデモス、さらにはイタリアのポピュリズム政党・五つ星運動、フランスの極右政党・国民戦線など、ギリシャの急進左派連合に共鳴する反緊縮政党が欧州じゅうで急台頭している。
そして、最大の火種は間違いなく米国にある。早ければ9月にも想定される利上げが実施されれば、リスク資産になだれ込んでいた大量のマネーが逆流するのは間違いなく、株価の大幅調整を迫られる可能性が高い。
特に、米国など世界的な金融緩和の流れで急膨張したヘッジファンドの資金は、300兆円にも達し、世界中を駆け巡っていたが、このホットマネーが利上げによって米国へと逆流することになる。
ギリシャショックのみならず、欧米中のリスクオフ要因の同時発生によって、マネーが大逆流するインパクトは計り知れない。