予定通り運ばないのがスポーツの面白さ。何が起こるかわからない瞬間を選手たちは全力でプレーする。それを支えるキャッチャーの存在も大きい。
だが、選手たちの懸命さに比べて、放送する側の言葉が紋切り型で表現力に欠けるのが気になった。
「見るものの魂を揺さぶるプレー」だの「日の丸を背負って戦う」だのと、国を持ち上げる表現の羅列。「日本が一つになった」と言われると、戦争時を思い出してひねくれ者は不安になる。素直に自然にそれぞれ喜べばいいので、必要以上の盛り上げや涙などいらない。
もっと自分なりの表現力を養って欲しい。今回のWBC優勝の瞬間など、酔わせる一言が飛び出す最高の機会だったが、ついぞなかった。
ちなみに「野球」と名付けたのは俳人正岡子規ともいわれる。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2023年4月7日号