自身初のGPシリーズで、ショート8位からフリーで追い上げ、総合5位という結果を残した(写真:松尾/アフロスポーツ)

ジャンプだけでなく

 張り詰めた空気感のなか、軽やかに4回転サルコウを決める。パワーと美しさの共存する飛躍に「+5」の評価をつけたジャッジが4人おり、14点を獲得。高難度の4回転ルッツの基礎点を上回る、鍵山の武器となるジャンプだった。

 演技中盤のトリプルアクセルで珍しく転倒したものの、一番の見せ所であるステップシークエンスでは、徐々にスピードが増していく曲調に合わせ、エネルギーを爆発させた。

 ミスは一つ。緊張の表情で得点を待つと、フリー182.88点で2位、総合288.39点での優勝だった。

「最後まで諦めずに練習通りのことが出せました。総合1位を見て、ホッとしました」

 改めて、コストナーとの練習を振り返る。

「3月に復帰してからは、カロリーナさんが身体の使い方をていねいに教えてくださり、表現力で積み重ねてきました。ジャンプだけでなく表現を意識することで、試合で不安にならなくなったと思います」

女子は青木が5位

 翌朝、鍵山と宇野は、2人並んでインタビューに応じた。宇野は、達観した表情で話す。

「もう(採点について)言うことはありません。今回は優真君が素晴らしい演技でした。この先、GPファイナルと全日本選手権で、優真君という特別な選手と試合に出られるので、全力を尽くしたいです」

 すると、鍵山も続ける。

「僕も、昌磨君や他の選手に火をつけられる存在でありたい。GPファイナルはもっとハイレベルな戦いになるので練習を重ねていきます」

 2人は、切磋琢磨し合うことを誓い合った。

 一方、女子は青木祐奈(21)、三原舞依(24)、樋口新葉(22)が出場。大学4年生でNHK杯初出場をつかんだ青木は、ショートで自身が振り付けたプログラムを披露。得意の3回転ルッツ+3回転ループも回転不足ながら降り、日本勢最高位の5位につけた。

 三原は怪我で中国杯を欠場し、覚悟の出場で8位。

「カムバックするという強い気持ちで過ごし、試合に出られた喜びが何より大きいです」

 また樋口は、トリプルアクセルに2季ぶりに挑戦し、本番は転倒となったが手応えを掴んだ。

 それぞれが課題と収穫のあったNHK杯。GPファイナルそして全日本選手権へとまなざしを向けた。(ライター・野口美恵)

AERA 2023年12月11日号より抜粋

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