商品部兼営業部 部長 河崎雄也(かわさき・ゆうや)/1977年生まれ、京都府出身。エスモードジャポン東京校卒業後、海外の帽子メーカーで企画、営業を行い、2008年に水野ミリナー入社。帽子職人・伊坪寛氏のもとでブレード帽子を学ぶ。全国の百貨店で帽子職人としてブレード実演を行う(撮影/写真映像部・東川哲也)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2023年12月11日号には水野ミリナー 商品部兼営業部 部長 河崎雄也さん(「崎」は、たつさきが正式表記)が登場した。

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 モットーは世の中にない新しい帽子を作ること。街中で見かけるあらゆるものから新しい商品が作れないか、いつもアンテナを張っている。

「100個考えて2個ぐらいはヒットします。失敗のほうが多いけど、社長は新しいものを作ってみろと言ってくれていて、ありがたいです」

 そのうちの一つが、素材は天然和紙なのに洗える帽子「Aqua Melange」だ。「ペーパー素材の帽子は通気性がよくて涼しいけど、洗えないのが困る」という客の声が商品開発につながった。原料加工の段階で耐水強化剤を配合していて、手洗いすることができる。

 ただ、天然素材はザラザラした質感で、ささくれ立ちやすい特徴がある。柔らかな手触りを実現し、気持ちよく使ってもらおうと、洗える機能に加え、質感にもこだわった。

 糸の発色にも注力した。染料はグラム単位の調整をし、仕上がりを確認しながら進めた。思っていたのと色味が違う時は、納得いくまで何度も染め直してもらった。天然素材は色が落ちやすい特性があるが、その課題も解決した。

 まさに妥協しない姿勢が作り出した逸品。「実際に手にした人から『こういうのを探していました』と評価されることが多く、作ってよかったと心から思えます」

 今の会社で働く前は海外の帽子メーカーで企画、営業を担当していた。だが、使える素材や作れる形が限られていて、「このままではスキルアップにつながらない」と転職を決めた。

 移ってすぐの頃は一日中、帽子作りに打ち込んだ。とにかく数をこなすことが上達の近道だと職人に教わり、数え切れないほどの帽子を作った。仕事が終わった後の時間も練習に充て、腕を磨いた。

 その後、全国各地の百貨店をまわり、客の前で帽子作りを実演。売り場で客の要望や意見を丁寧に聞き続けた経験が豊かな発想力のヒントになっている。

「帽子と何かをコラボさせた企画もおもしろいと思うし、帽子をつくる糸で別のものを作ってみるのもいいと思っています」。思いついた企画は必ず形にして提案し、却下されても改良を重ねて日の目を見るのを待つ。

「いろいろチャレンジして、結果としてお客様が喜んでくださるのが一番です」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2023年12月11日号