(c)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 (c)パリュスあや子/講談社

知らず知らずのうちに

上野:そうですね。まずは言ってみることが大切だと思います。意外と相手は何もわかっていないことがあるし、その人にはその人の時間が流れているので。一歩踏み出すことで世界が開けるかもしれないし、「やっぱりないな」となるかもしれない。相手がどう出るか次第で、対応を考えたらいいかなと思います。

 最近、人生初のミュージカル公演もしましたが、歌い終わった後の空気や、人が全力で取り組むパフォーマンス力に涙が出そうになる。自分の心が震えることも、心で見ることの一つなのかなと思っています。

──「隣人X」を通して伝えたいメッセージを教えてください。

林:映画では、良子のことを「普通じゃない」と言う人もいますが、良子だからこそ見えたり、気づけたりすることが描かれています。今は、SNSなどで顔が見えない相手を簡単に傷つけられる時代です。人と比較することで、ネガティブな感情も抱きやすい。でも、自分を肯定する気持ちを持ってほしいと思います。その思いを今回の作品の中で表現しているので、観る方に伝わったらいいなと思います。

上野:ここ数年、新型コロナウイルスの流行をはじめ、ネガティブなニュースが多い中で、自分のことを愛せなくなったり、自信がなくなってしまったりする人は少なくないと思います。心の溝を埋めるために、モノを買ってみたり、知識を入れてみたりすることもあるかもしれません。みな、「ありのままで完全な存在」なのに歪みが生じて、そして、自分も知らず知らずのうちに、被害者にも、加害者にもなり得る可能性があることを、この映画を通して感じてもらえたらと思っています。

(構成/フリーランス記者・小野ヒデコ)

AERA 2023年12月4日号

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