父の美しい高座を観て講談師への道を決意した思い出の国立演芸場で、「名月若松城」を読む(撮影/鈴木愛子)
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 講談師、七代目一龍斎貞鏡。今年10月、講談界に新たな真打が誕生した。父の高座姿にあこがれ、この世界に入った七代目一龍斎貞鏡だ。父を師匠に、古典講談を叩きこまれた。その師匠が2021年に急逝。落ち込み、眠れぬ日々から立ち直っての真打昇進だった。高座をおりたら、4児の母になる。父から受け継いだ美しい高座と子どもたち。どちらも命がけで守りたい。

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 高さ7センチの真っ赤なピンヒールを履き、170センチを超える色白のスレンダーな長身を、膝上20センチはあるミニスカートで包んだ茶髪の女子大生が、場違いな雰囲気の国立演芸場の座席に滑りこんだ。家で何げなく手にしたチラシによると、怪談噺(ばなし)をやるらしい。演目は「牡丹燈記(ぼたんとうき)」。中国明代の怪異譚(かいいたん)で三遊亭円朝作の落語「怪談牡丹灯籠(どうろう)」の元となった話である。

 初めて観る講談の高座に女子大生は打ちのめされるほど強い衝撃を受けた。湖のほとりや月明かりの中で手をとりあう男女がはっきりと見え、伽羅香木(きゃらこうぼく)の香りまで確かに漂ってきた、と思えた。

「なんと美しい日本語で美しい佇(たたず)まいと姿勢なんだろう。私もこの世界に入りたい」。高座で読んでいたのは、凛(りん)とした古格の美しさで知られた八代目一龍斎貞山(いちりゅうさいていざん)。七代目一龍斎貞鏡(ていきょう・37)が初めて観た父の高座姿だった。

 祖父は怪談噺を得意とし「お化けの貞山」として知られた七代目一龍斎貞山、父は古典講談の第一人者八代目貞山、義祖父は世話物の名手六代目神田伯龍(はくりゅう)。世襲制ではない講談界で三代目となるいわばサラブレッド誕生のきっかけである。貞鏡はこの10月、15年の歳月をかけて前座、二ツ目を経て最高位である真打に昇進した。

 2008年にデビューした貞鏡が今熱く注目されているのは、伝承されてきた王道の古典講談を伝えていこうと心血を注いでいるからだ。講談にも爆笑ものや音楽をとりいれた新作など様々なものがある。自身も得意なピアノ演奏を取り入れた講談をしたことも。しかし今「物語を表現する美しい日本語」を伝えていきたいという使命感で、古典講談に果敢に取り組んでいるのだ。

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