つまり、今手元にあるデータだけで、あるいはデータ全部そろえたところで、分析を始めるわけです。

 一方、ベイズ統計学では、既存のデータによる分析結果をもとにした上で、新しく来たデータを使ってその分析結果をアップデートするという考え方を取ります。

 つまり、新しくデータが足されていくような場合にもうまく対応しているということです。そのためベイズ統計学は、新しいデータが次々と生み出されるビッグデータ時代に非常にマッチしています。

 もともと理論自体は古くから完成していましたし、応用の可能性も専門家の中では認識されていたのですが、先ほど説明したように計算が大変なのが難点でした。それがコンピューターの発展と共に膨大な計算が素早く行えるようになったため、一気に実用化が進んだのです。

 インターネットの検索エンジン、迷惑メールフィルタ、AIによる自動運転、お客さんが商品を買う確率の予測、がん検査など、いくつもの分野でベイズ統計学が応用されています。

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冨島佑允

冨島佑允

●冨島佑允(とみしま・ゆうすけ) 1982年福岡県生まれ。京都大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修了(素粒子物理学専攻)。MBA in Finance(一橋大学大学院)、CFA協会認定証券アナリスト。大学院時代は欧州原子核研究機構(CERN)で研究員として世界最大の素粒子実験プロジェクトに参加。修了後はメガバンクでクオンツ(金融に関する数理分析の専門職)として各種デリバティブや日本国債・日本株の運用を担当、ニューヨークのヘッジファンドを経て、2016年より保険会社の運用部門に勤務。2023年より多摩大学大学院客員教授。著書に『日常にひそむ うつくしい数学』(小社)、『数学独習法』(講談社現代新書)、『物理学の野望――「万物の理論」を探し求めて』(光文社新書)などがある。

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