クリスチャンとは思えない行動ですが、修道士たちは、ぶどう酒の入った杯に毒を混ぜてベネディクトゥスに飲ませようとしたのです。彼らは本気でした。

 毒入りのぶどう酒を飲む前、ベネディクトゥスが神に祈り十字を切ると、杯がまっぷたつに割れてしまいます。蒼褪めた顔になる修道士たちを見回し、彼は言いました。

「兄弟たち、わたしのことがそんなに邪魔なら、わたしはここを去りましょう」

 ベネディクトゥスは修道院を去り、また荒れ野で独り修行を始めました。やがて、いくつもの奇跡を起こした彼はふたたび人々の評判となり、多くの弟子志願者が彼のもとに集まり、ベネディクトゥスは12の修道院を創設することになります。

 その後も順風満帆ではなく、ベネディクトゥスの高まり続ける名声を妬み、一方的なライバル心を持つフロレンティウスという司祭がいました。フロレンティウスはベネディクトゥスを毒殺しようとしたり、ベネディクトゥスの修道院に若い女性7人を送り込んで全裸で踊らせて修道士たちを誘惑させたりしました。ベネディクトゥスは自分が修道院にいる限り、粘着司祭フロレンティウスからの執拗な攻撃が続くと考え、またしても修道院を去る決意をします。ベネディクトゥスの寂しげな背中が修道院から遠ざかるのを見ながら、フロレンティウスは拳を天に突き上げて快哉を叫びます。

次のページ 西方修道院の父