美しい熊本城映像で見るのと肉眼では大違い(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 行ってきました! 大分の翌週は本へ。今回の講演会にも300人以上の方にお集まりいただき、ありがたい気持ちでいっぱいでした。

 熊本にはずいぶん昔に1度仕事で来たことがあるだけ。今回は自由時間がほとんど取れないスケジュールでしたが、やはり熊本城は見ておきたい。

 2016年4月14日、熊本県熊本地方で大きな地震が発生しました。最大震度7の本震が連続した、観測史上例のない地震と言われています。

 熊本城の被害も甚大で、建物の破損だけでなく、倒壊した文化財も、石垣が崩壊した場所もありました。天守閣をはじめ、昭和35年に復元した建造物も被害を受けました。

 正直、私は日本史に詳しいわけでもないし、熊本城に思い入れがあったわけでもありません。しかし、被害の映像を見たとき胸がつぶれそうになったのです。自分の街で同じことが起きたら、心のダメージは計り知れないだろうと。

 なにかできることはないかと考え、少額ながらふるさと納税で募金をしました。にもかかわらず、それ以降、私は自発的に熊本を訪ねることはしなかった。このあたりがダメなところです。一時の感情でなにかやって、それだけになってしまうところ。

 今回は絶対に、少しだけでも熊本城を訪れる。そう決めてハイパースケジュールをこなして夜遅くに前乗りし、翌朝、講演会の前に行きました。

 実際に足を運び、来てよかったと心から思いました。なにより目の前に現れたのが美しい城だったこと。そして、まだまだ修繕が必要なことが、近くまできてわかったからです。中には入れませんでしたし、復興にはあと20年から30年は掛かるとのことでした。あれから7年以上経過しているのに、石垣が崩れたままの場所は、まだある。なんでもそうですが、映像で見るのと、肉眼で見るのでは大違い。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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