グランプリシリーズ第4戦中国杯は、宇野昌磨にとり今季初めての試合だった。11月に入ってからのシーズンスタートは、異例の遅さといえる。
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そして中国杯のショートプログラムは、最高の出来栄えとなった。師事するステファン・ランビエールコーチが振り付けた『Everything Everywhere All at Once』は、宇野の重厚なスケーティングと滑らかな上半身の動きが堪能できるプログラムだ。冒頭の4回転フリップを皮切りに4回転トウループ+3回転トウループ、トリプルアクセルと3本のジャンプを決め、滞りなく展開していく。
内省的で不思議な雰囲気も漂う曲調に乗り、宇野は力強く、また時には美しく、流れるようなスケーティングをみせている。初優勝した2022年世界選手権で滑り、会見で海外メディアに称賛されたショート『オーボエ協奏曲』を思い起こさせる完成度の高さだった。演技構成点のプレゼンテーションでは10.00の評価も一つあり、得点は今季世界最高となる105.25。宇野は、ショート首位でフリーに臨むことになった。
今季の宇野は、表現に注力することを明言している。昨季世界選手権で連覇を果たした直後のミックスゾーンで、既に宇野は今後違うアプローチで競技に向き合う意志をみせていた。
「僕がスケートをやってきた上で求めているのは、自分が自分の演技を見返した時に『いいな』と思える演技をしたい。僕は正直、この二年間(そういう演技が)できているか、と聞かれたら、ジャンプは本当に上手くなりましたし、いいと思いますけれども、『スケーターとしてどうだ』と考えると、あまり『うん』とは思えないので。
僕はこのシーズンオフ、いつもシーズンに向けてどう調整していくのか、ということを考えますけれども、今回はそうではなく、エキシビションやアイスショーに出る中で『どんなスケートをできるか』『こういうスケートもできるんだ』というものを探していけたらな、と思っています」
突然に思えたこの発言は、実は葛藤を抱えながら競技に向き合い続け、世界選手権連覇を果たしてようやく漏らした宇野の本音だった。その言葉通り、9月まで公演があった『ワンピース・オン・アイス』で主人公・ルフィを全力で演じた宇野は、今季初戦を11月に迎えることになったのだ。