2021-22シーズンからともに傑作を創り上げてきた宮本賢二氏が振り付けた今季のフリー『Timelapse/Spiegel im Spiegel』は、宇野のスケート人生を表現しているという。冒頭の4回転ループで転倒すると、4回転を予定していたフリップも2回転になった。後半では4回転トウループを4分の1回転不足となりながらも着氷、4回転トウループ+3回転トウループを決め、伸びのあるスケーティングを披露している。
余韻を残して演技を終えた宇野は、最後のポーズを解きながら笑顔をみせている。ジャンプの成否で演技の良し悪しを判断したくないという思いが伝わる場面だった。フリーで逆転を許した宇野は、銀メダルを獲得して初戦を終えている。
宇野が今季滑る2つのプログラムには、どちらも彼にしか醸し出せない深みがある。ただ、中国杯ではやはりミスなく滑ったショートが圧倒的に心に残る演技となった。表現を中心に考えても、やはりジャンプの成否はプログラムの完成度に大きく影響することを、宇野自身が一番感じているはずだ。
宇野の次戦は、11月24日から始まるNHK杯になる。初戦で名演技を披露したショートに続き、フリーもミスなく滑ることができれば、日本の観客は傑作を目にすることになるだろう。(文・沢田聡子)
沢田聡子/1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」