ビキタ社と長年取引を行ってきた窯業専門商社の担当者は、天災や政情不安によってペタライトが入手困難になることは想定していたという。
「しかし、まさか電気自動車(EV)用バッテリーの原材料確保のために鉱山が買収され、ペタライトの輸入がストップするとは、まったく考えていませんでした」
絶対不可欠な原料なのに
背景にあるのは、EV用のリチウムイオンバッテリーの需要増加にともなう、世界的なリチウム鉱石の争奪戦だ。
ペタライトには通常、4%前後の酸化リチウムが含まれている。
リチウム原料の生産量は、豪州、チリ、中国、アルゼンチンで世界の約9割を占める。さらに最近は主要国以外でも生産拡大が進んでおり、その一つがジンバブエだ。
2022年1月、EV用リチウムバッテリーの材料開発などを手掛ける中国企業がビキタ社を買収。この鉱山から産出するペタライトは、すべて中国へ輸出されるようになった。
「輸入が止まってから、『ペタライトを売ってもらえませんか』と、韓国や台湾など海外の業者から電話がかかってくるようになりました。輸出停止は日本向けだけではないことがわかりました」(窯業専門商社の担当者)
ペタライトはカナダやブラジルなどにも埋蔵されていることが知られている。にもかかわらず事態が深刻なのは、中国企業に買収されたビキタ社が世界で唯一、工業用として安定した品質のペタライトを生産している会社だからだ。
「輸入が止まってから、カナダの企業から『ペタライトをお分けしますよ』と連絡があった。詳細を聞くと、鉱区に投資すれば掘れますよという、眉毛に唾を塗らないといけないような話だった。ブラジルなんて、ペタライトを掘る前に、まずジャングルに道を切り開くところから始めなければならない」