よく目にする「花三島柄」の土鍋づくりには、ペタライトが不可欠という=銀峯陶器提供

 冬に恋しい鍋料理には、土鍋が欠かせない。ところが今、土鍋に危機が訪れている。土鍋の材料となる鉱石「ペタライト」には、電気自動車(EV)のバッテリーなどに欠かせないリチウムが含まれており、ペタライトをめぐる世界的な争奪戦が激化。土鍋のための入手が困難になっているというのだ。

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 国内で製造されている土鍋は、約8割が三重県の「四日市萬古(ばんこ)焼」だ。

 県工業研究所窯業研究所の林茂雄課長によると、四日市が土鍋の一大生産地となったきっかけが、ペタライトなのだという。

 1950~60年ごろから、各家庭にガスが普及していった。当時の土鍋は炭や練炭で加熱しても問題なかったが、火力の強いガス火では急激な温度上昇に耐えられず、ひび割れてしまう問題が起こった。

 当時、この問題に取り組んだ四日市の窯業メーカーが着目したのが、ペタライトを使うことで耐熱性に優れた製品ができるという米国の科学論文だった。

 ペタライトは「ペタル石」「葉長石(ようちょうせき)」とも呼ばれる鉱石だが、日本ではほとんど産出しない。そのため、はるばるアフリカ南部のローデシア(現ジンバブエ)からペタライトを取り寄せて試作を繰り返し、1959年、ついに商品開発に成功した。「ガス火でも割れない土鍋」はヒット商品となり、全国に広まった。

 現在、ペタライトは土鍋の原材料の約4割を占め、ペタライトなしで土鍋を作ることは困難なのだという。
 

 ところが、である。

 昨年夏、ペタライトの輸入が突然止まった。原因は中国企業が、ジンバブエでペタライトの鉱山を運営するビキタ社を買収したことだった。
 

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輸入ストップの背景にあった「争奪戦」