佐々木 医師になって9年目、大学院で研究をしながら、アルバイトでたまたま在宅医療に触れたことが転機となりました。自分がこれまで医療に対して抱いていた使命感みたいなものが、もしかしたら間違っていたかもしれないと感じたのです。その価値観の転換は大きな衝撃で、すぐに大学院に退学届けを出し、貯金も経験もないまま東京・千代田区に在宅療養支援診療所を開設しました。

長尾 私は医師になって12年目に開業し、自分の家で最期まですごしたいと考える患者さんと出会い、それから在宅で診る患者さんが増えていきました。最初は医師と看護師、3人体制で始め、開業して4年目に医療法人にしました。先生は?

長尾和宏医師 写真/上田泰世(写真映像部)

佐々木 私たちは5人体制でスタートしました。訪問診療は半径16km圏内というルールがありますが、私は田舎育ちのせいか半径16kmという距離は「たいしたことない」という感覚で……。千代田区の診療所で東京23区全域を診療圏にしようと考えていたのですが、都内の移動は予想以上に時間がかかりました。患者さんの増加に伴い対応が困難になり、拠点を分けることが必要だということになったのです。開業して1年半後に次の診療所を作り、そのときに法人化しました。

約8000人の患者を24時間体制でサポート

長尾 先生が理事長を務める「悠翔会」の取り組みについて教えていただけますか。

佐々木 もともと、超高齢化社会で、今の医療制度では支えられない人たちを救うしくみを作りたいと考えていました。悠翔会は、「かかわったすべての人を幸せに」を理念とし、すべての患者さんとご家族に安心できる生活と納得できる人生を提供することをミッションとしています。現在、首都圏近郊を中心に国内24カ所に診療所を設け、60人超の常勤医と、ほぼ同数の非常勤の医師や精神科、皮膚科、歯科などの専門医、合わせて約120人の医師が約8000人の患者さんを24時間体制でサポートしています。

長尾 開業して17年で国内最大ともいえる在宅医療専門クリニックに成長したのですね。そこまで飛躍的な発展を遂げた秘訣は何ですか?

佐々木 大きくしようと思っていたわけではなく、結果的に大きくなったと思うのですが、実は、当会は私も含め、在宅医療を経験してきた医師は多くありません。ただ、病院で仕事をしていて、どうも患者さんを幸せにできている実感がないと感じ、患者さんの望みをかなえるためにどうすればいいか、治らない病気や障害があっても人生最後まで幸せに生き切るためにどうすればいいかと考え、そのためには在宅医療が必要なのではないかと考えた人たちが集まってくれた。そういう医師が患者さんのことを真摯に考え、実践したいと考えたときに、型にはまったルールを押しつけず、それぞれの医師が思う形で力を発揮できる環境を整えることが重要と考えました。

暮らしとモノ班 for promotion
2024年Amazonプライムデー開催間近!いつから開催か、おすすめの目玉商品などセール情報まとめ。
次のページ
理念さえ共有できれば、現場の先生方にお任せ