急速に増えるイノシシ被害を受けて、環境省と農林水産省は13年、イノシシの個体数を10年後までに半減することを目標とする「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を策定した。
そして捕獲を強化した結果、イノシシの数は14年度の120万頭をピークに減り始め、19年度には80万頭に減少。今年度中に50万頭にまで減らそうとしている。
ところが、頭数は減った一方で、生息範囲は東北や北陸、関東で広がっている。14年度と比べて、19年度の生息範囲は全国で1.1倍に拡大したことが、環境省の調査で明らかになっている。
分布域が広がっている地域の一つが関東地方で、そのなかでも著しいのが千葉県だ。
千葉県が21年度に全市町村の農家組合長らに聞き取りをしたところ、県北の一部地域を除いて「イノシシの生息を把握している」という回答を得た。
イノシシは米や野菜、果物などを食い荒らすため、分布の拡大とともに農作物被害も増えている。
県内での農作物被害額は00年ごろから目立ち始め、16年には約2億6千万円に上った。イノシシの捕獲を進めているものの、その後も約2億円前後で高止まりしている。
そして農作物への被害も深刻だが、電気柵の設置などお金や労力をかけたイノシシ対策もうまくいかず、あきらめて農業をやめてしまった人も少なくない。
耕作放棄地は草が伸び放題の荒れ地となり、イノシシの絶好のすみかができるという悪循環になっているという。
また、わなでイノシシを捕えても解体施設が限られるため、ジビエとしての活用もできていないのが現状だ。
人為的に持ち込まれ、急速に増えたイノシシ
千葉県内のイノシシは、一度「絶滅」したとされている。
県内では1952年から68年にかけて豚コレラがまん延し、72年に捕獲された2頭を最後に、県内から姿を消した。
ところが86年にふたたび捕獲され、その後は2000年を境に捕獲数が急激に増えたのだ。