「特別食堂 日本橋」の「お子さまランチプレート」2970円。東京會舘の料理人らが腕を振るう本格的な味わい。子どもが喜びそうな皿、富士山をイメージしたライスの旗など、昔からコンセプトは変わらない photo 菅 朋香

 エビフライ、ナポリタン、ハンバーグ……。子どもの好きな洋食をぎゅっと盛り合わせた「お子様ランチ」。レシピ本『東京・大阪 名店の味が再現できる! ひみつの町洋食レシピ』に、その誕生秘話が収録されている。始まりは、老舗百貨店の食堂で提供された「御子様洋食」だったという。本の発売に合わせて、収録コラムを配信したい。

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 日本で一般に洋食文化が広まったのは、大正時代。ライスカレーやコロッケが流行し、家庭用の洋食のレシピ本も出版された。そして、さらに多くの人が洋食と繋がるきっかけになったのが、続々とオープンした百貨店の食堂だ。

 デパートにできた大食堂は、家族の外出の後押しにもなり、市民から愛される場所になった。1934年に誕生した日本橋三越本店の特別食堂(現在の「特別食堂 日本橋」)は、現在では国の重要文化財にもなっている本館内にある。アール・デコの装飾が品格を感じさせる店内で、三越の買い物客のほか、皇族をはじめ、要人たちの社交の場としても利用されてきた。

特別食堂 日本橋(東京・三越前/日本橋三越本店7階)

 現在のような特別食堂になる前の1930年に「お子様ランチ」の発祥とされる「御子様洋食」が誕生。当時の食堂の主任だった安藤太郎氏が、「世界恐慌の影響で暗い世の中だったことから、「子どもたちを喜ばせたい」という想いで子どもの好きな料理を合わせた一皿をつくったのが始まりだという。

 いろいろな洋食を盛り合わせて出すというスタイルが斬新で、瞬く間に人気が広まった。お子様ランチのシンボルとも言えるライスに立てた旗は、安藤氏の趣味が登山だったことから、山頂に登頂の旗を差すことをイメージしたものだ。

 数々の逸話とともに受け継がれてきた元祖・お子様ランチは、誕生から100年近くもの間、時代に合わせて料理やスタイルを変えながら、世代を超えて親しまれてきた。家族でゆっくり食事ができる場所として選ばれることも多く、常連客の中には、子どもの頃から来ていたという人や、4代にわたる家族で訪れる人もいるという。

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とろとろ卵の中にナポリタン