ハマスの人質となった220人のために作られた、人のいない安息日のテーブル(ロンドン、ロイター/アフロ)

 イスラエルと、パレスチナ自治区・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの紛争が続いている。イスラエル・エルサレム在住で、AERA dot.コラム「金閣寺を60回訪れたイスラエル人教授の“ニッポン学”」を連載中のニシム・オトマズキン教授(国立ヘブライ大学人文学部長)が、ハマスによるイスラエル人らの拉致について寄稿した。

【写真】誘拐されたイスラエルの子どもたち

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 2002年10月、私が留学生として日本に住んでいたとき、信じられないようなニュースに遭遇しました。それは25年近く北朝鮮に拉致されていた蓮池薫さん、蓮池祐木子さん、地村保志さん、地村富貴恵さん、 曽我ひとみさんの、北朝鮮からの帰国です。どんな鮮やかな想像をも超えるような奥深い現実に、私は衝撃を受けました。彼らが空港に降り立ち、故郷へ帰る旅路がテレビで放映されたときの感動の瞬間を、私は今も鮮明に覚えています。そして地村保志さんが故郷の小浜(福井県)で、生き別れた友人たちと再会を果たした姿は特に感動的でした。また地村さんが亡き母を祀った仏壇の前にひざまずき、「お母さん、いま帰りました」と苦しそうに報告していたのを今でも覚えています。

 2023年10月7日、ハマスがガザの近くで恐ろしい虐殺を実行したこの日が、私の記憶に刻まれました。この日、イスラエルでは罪のない220人以上が拉致された日であり、私は日本人拉致被害者のことを思い出しました。

 その日、ハマスのテロリストは 1日足らずの間に、ガザ国境近くのイスラエルの町や農業コミュニティー、野外音楽祭に奇襲攻撃をかけました。彼らの目的はできるだけ多くのユダヤ人を殺害することで、その結果、これまでに女性、子供、老人を含む1300人が容赦なく虐殺されました。犠牲者の中には過激派組織イスラム国(IS)流の残忍な斬首の犠牲になった人も多くいます。テロリストたちは家から家へと襲撃を行い、隠れていた人々を捕まえ、女性を強姦し、遭遇した人の命を容赦なく奪いました。

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Nissim Otmazgin

Nissim Otmazgin

〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授。トルーマン研究所所長を経て、同大学人文学部長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年ヘブライ大学にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に贈られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。2012年、エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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