中国で開かれた第30回農業ハイテクフェアの会場で、製品を解説するイランの出展者、2023年9月(新華社/アフロ)
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 食料自給率が著しく低く、輸入できなければすぐさま飢餓状態になる「隠れ飢餓」の日本。農業生産の向上は急務であるにもかかわらず、高齢化や人口減少など高い壁が存在する。そうした問題を解決して食料自給率を上げるには、柔軟性のない法制度の改革が必要だと、中国・アジアの食料・農業問題などを研究している愛知大学名誉教授で、同大国際中国学研究センターフェローの高橋五郎氏は訴える。『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。

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海外のプロ農家にトビラを開けよ

 自国民にしか農業経営が許されない日本のような国はめずらしい。社会主義国の中国でさえ、最近、海外企業に大規模農業経営ができるモデル地区を設けることにしたほどである。海外の農業経営のノウハウを学ぶことをねらったものである。戦時中ならいざしらず、海外との経済連携で生きる以外に道はない国際化した現代日本でまかり通る自国民主義は、「自由で開かれたインド太平洋」という価値観とも真っ向から対立するのではなかろうか。

 農業自国民主義の象徴の一つが皮肉なことに「農業労働」の外国人依存傾向の強まりで、技能実習制度はその典型であるが、最近になって、さすがに人権侵害という国際社会からの批判をかわすためか、技能実習制度を廃止、労働力確保という本音に基づく特定技能制度への一本化など、制度の見直しを始めるに至った。とはいえ労働力が不足する農業・畜産などの作業労働の人手不足を補うだけという狙いは変わりそうもない。

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技能実習生が実質的な働き手