大宮:普通はどうしても、こうなりたいなあって思っちゃうかもしれませんね(笑)。決めることを手放したのかな。
松本:僧侶の道を歩んでいなかったら、もっと苦しんでいたと思いますね。東大に合格して、大手企業に入るか、起業するか……何かを追い求めるのに終わりがない。疲弊して心が折れていたかもしれない。枠の中で戦っているとしんどいと思います。
大宮:なるほど。
松本:仏教では、苦しみの原因は思いどおりにしようと思うことである、と。大切なのは自分がいかに執着から離れていられるか。私自身、経験を重ねながらだいぶバランスが取れるようになってきたと思います。
大宮:仏教深い! 考え方一つで自分の心持ちが変わるものなんですね。
松本:世の中から「ステータスが高い」と言われるようなものを持ってる人ほど人生の選択に悩むと思うんです。例えば、年収500万円の人と、年収5千万円の人が、いつかパン屋をやりたいと思っていたら、年収5千万円の人のほうが、人生の選択肢が多くて、本来はなりたいパン屋へのハードルが高くなってしまう。
大宮:確かに。
松本:だからね、東大を出て僧侶とかも、みんななかなかその選択ができない。東大卒の生かし方って、東大卒の人が群れてるところに突っ込んでいくだけではないんですけどね。
※AERA 2023年10月30日号