作家・画家の大宮エリーさんの連載「東大ふたり同窓会」。東大卒を隠して生きてきたという大宮さんが、同窓生と語り合い、東大ってなんぼのもんかと考えます。今回は松本紹圭さんが取り組む「産業僧」の話を伺いました。
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松本:今までは娑婆(しゃば)(社会)の知恵というか、経営の知恵を仏教界に持ってきたんですが、コロナ禍もあり、今こそ、生きる苦しみを2500年前から扱ってきた仏教の知恵を産業界に伝えていく時じゃないかと思って「産業僧」を始めました。
大宮:産業医みたいな?
松本:企業との契約によりますが、従業員と1対1で話す感じです。
大宮:みなさんの悩みを聞かれる?
松本:はい。「ここではどんな荷物も下ろしてもらっていいですよ」と伝えています。家族の悩みでも、親子、夫婦間のことでも何でもいいんです。
大宮:そうなんだぁ、仕事の悩みだけではなく、すごい。
松本:AIの音声感情解析も開発して使っています。医療でも確立されている技術で、声からその人の感情・コンディションがわかります。例えば100人の会社であれば、30人の従業員と対話をすれば、その会社の様子はだいぶ見えてきますね。社内巡礼して見えてきた景色を経営者にフィードバックしています。
大宮:MBAを取ってらっしゃって、企業の言葉も分かるからいいですね。
松本:お坊さんの仕事って、自分で新しい言葉を作るオリジナリティーはいらないんです。ブッダや親鸞をはじめ、先人たちのたくさんの知恵があるので、それをどう現代の人たち、目の前の人に、翻訳するか。
大宮:キュレーションですよね。
松本:どの言葉をかけるといいか、僧侶としての腕の見せどころですね。
大宮:今までの人生で、うまくいかなかったことってないんですか。
松本:挫折体験でいうと、あんまりないような感じはしていて。じゃあ挫折知らずかっていうと、そんなことないと思うんです。例えば10年前に「10年後には絶対こういう自分になっていたい」と思ってかなったことが本当に成功なんだろうか。それは10年前の自分が想像できた範疇(はんちゅう)の中に留まっているということでもある。何が成功か失敗か定義しようがない。だから、私は想像がつかない未来のほうが面白いんです。逆にいえば、どうなっても、そういうもんだと思うんですよね。