10月17日、ガザ地区で。死傷者がいないか瓦礫の下を捜索するパレスチナ人(写真 ロイター/アフロ)

 過去の戦闘と最も異なるのは、ハマスが人質を取った点です。これがなければ、もっと早い段階でイスラエルの地上侵攻は始まっていたでしょう。ハマスの側に大きな交渉カードがあることは重要な点だと思います。

 近いうちに地上侵攻が始まることは不可避だと見ています。そもそもネタニヤフ政権の治安上のミスが招いた事態に、すでに36万人の予備役が招集されている。これを一切動かさず「交渉で解決」と言っても、国内世論が収まらないでしょう。

 カギはやはり「人質の解放がどうなるか」です。私は民間人、とくに外国籍の人質はハマス側が国際的な批判を恐れ、解放される可能性があると見ますが、軍人は手元に残して最後まで交渉カードとして使うでしょう。

 そうなったときイスラエルとしては、空爆だけで救い出すことは難しい。解放のために地上軍の特殊部隊だけでも送り込むという展開はあり得ます。

錦田愛子(にしきだ・あいこ)/慶応大学法学部教授。専門はパレスチナ・イスラエルを中心とした中東地域研究、移民・難民研究。共著に『教養としての中東政治』、編著に『政治主体としての移民/難民』などがある

最もベターな道は

 双方の軍事力には圧倒的な差があり、地上戦は1、2カ月程度で終わるでしょう。何よりも民間人の犠牲を最小限にという観点で言えば、ハマスが民間人解放と引き換えに要求する政治犯釈放などの条件をイスラエルが受け入れ、残りの人質解放のため特殊部隊の突入のみで侵攻が終われば、最もベターな道と言えるかもしれません。

 ただ、ガザ北部で地上戦となれば、イスラエルと敵対するレバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」も黙っていないでしょう。加えてハマスやヒズボラの後ろ盾であるイランが全面的にコミットしたり、あるいはイランと関係の深いロシアも何らかの形で顔を出してくれば、状況は複雑になります。

 もちろんイランやロシアが直接イスラエルを攻撃することはあり得ない。ただ「アメリカ、イスラエル対ロシア、イラン」という構図が生まれるようだと、問題の解決はさらに難しくなる。最悪のシナリオだと思います。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年10月30日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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