10月18日、ガザ地区で。イスラエルの空爆によって破壊された建物の瓦礫の上でうずくまるパレスチナ人の少年(写真:AP/アフロ)
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 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの地上侵攻の緊張が高まっている。今後どのような展開が予想されるのか、慶応大学法学部教授・錦田愛子さんに聞いた。AERA 2023年10月30日号より。

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 パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」はなぜ今回、イスラエルへの攻撃を始めたのか。背景にはまず、2007年から続くガザ地区封鎖の長期化があります。

 ガザの人たちは生活に必要な物資も得られず、失業率も高く、若い世代は将来への展望が持てない。そんな不満の中で、ハマスはイスラエルとの前回の戦闘(21年)以来「2年間準備してきた」と幹部が語るなど、周到に備えてきました。

 加えて昨年末のネタニヤフ政権成立以降、ヨルダン川西岸地区では入植者による暴力が頻発、パレスチナの民間人の死者がここ15年で最高になっていること。政権閣僚によるエルサレムのイスラム教聖地訪問という挑発が繰り返されていることも、背景としてあったと思います。

 今回はこれまでの両者の戦闘とは大きく異なる点があります。

大きな交渉カード

 一つは、イスラエル側に前例のない規模の犠牲者(死者1400人以上)が出ていること。ガザに圧倒的な被害者が出ていた過去の戦闘では、国際的な連帯運動としても「パレスチナ支援」の声は上げやすかった。しかし今回のように「ハマスもやりすぎでは」となってくると、国際世論は分断され、今後の展開に大きな不確定要素を突きつけることになるかもしれません。

 またこの多大な犠牲には、ネタニヤフ政権の後手に回った対応の責任が問われるでしょう。いまは「打倒ハマス」で一枚岩でも、戦闘が終わった段階で、ネタニヤフが責任を取らされることは避けられないと思います。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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