「今、日本社会で移民や難民に対して厳しい目を向ける人たちがいますが、実は日本人も流動的な民族だったわけです。特に戦後移民について私を含めて知らなかった人は多いのではないかと思うので、まずはその事実から、移民=外国人の問題ではない、と捉えなおせないかと。人はみな幸せになりたいし、生きやすい場所を求めて移動していい。そんなまなざしも共有できたらいいなと思います」

 本書では証言者全員を実名で紹介し、一人ひとりとどのように出会い、話を聴いてどう感じたかをきめ細やかに書いている。なかでも北海道→パラオ→北原尾(宮城県)を経てパラグアイへ再移住した中村さん一家の記憶を、亡き夫に代わって妻の博子さんが語る章は身近な人が語り継ぐ愛しさや、生きる力を感じる。

「人と出会うことを大切にしている」という寺尾さん。ライブの共演でも必ずセッションを提案する。「せっかく出会ったのだから、その日その人と生まれるものを大切にしたい」。普段から人と話すときも「少人数で深い話をしたい気持ちが強くて」と。

「その感覚が聞き書きの場でも出てくるのかもしれないですね。向き合って何かを感じる、深い部分で感じることで出会った意味を実感する。私はそういうふうにしか生きられないし、そこに役割があるんだろうなという気がします」

 本づくりの過程では、証言者本人の人生や思いが、家族であってもスムーズに受け渡されない状況を知った。いま、こんな思いを抱く。

「読んで感じた人が周りに伝えていく。その広がりを信じて本を書いています」

(ライター・桝郷春美)

AERA 2023年10月23日号

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