そのため、入水後に浮き上がってから『OKサイン』を出して意識がハッキリしていることをアピールしなければ、得点にならない。
だからこそ、いくら飛込選手であったとしても、きちんとハイダイビングのトレーニングを積まなければならない。それほど、ハイダイビングという競技は危険なのである。
荒田の初のダイブは、散々だった。大きな水しぶきとともに、味わったことがないほどの衝撃を全身で受けた。だが、荒田は浮き上がって笑顔で『I'm OK!』とサインを出すことができた。その瞬間、一緒にトレーニングしていた選手たちから大歓声があがった。その歓声を受けた瞬間、荒田は自分の進むべき道を得たのである。
【日本人初の世界水泳選手権出場も通過点 さらなる高みを目指す】
初のハイダイビングから6年。荒田は、今年7月に開催された世界水泳選手権2023福岡大会に初出場を果たした。
コロナ禍で海外に行けないなか、荒田が見つけたトレーニング環境は東尋坊だった。安全を確認し、その日の潮の流れや波を見つつ、東尋坊から、飛ぶ。
日本ではまだまだマイナー競技のひとつであり、ハイダイビングという競技があるということも知らない人も多い。ハイダイビングの知名度アップのために、荒田はメディアにも積極的に露出し、SNSでも発信した。東尋坊というロケーションも相まって、自分が思った以上の反応が返ってきた。
そうした先に辿り着いた、世界大会の大舞台。日本人初出場となる、荒田が踏み出した歴史的な第一歩を見に、SNSを通じてハイダイビングを知ってくれた多くのファンが会場に詰めかけた。
「日本で自分のパフォーマンスを観てもらえる日がくるなんて、本当に最高でした」
興奮を抑えきれない笑顔を見せる。結果、荒田は20位。メダル争いなど夢のまた夢のような結果ではあったが、その表情にはひとつの達成感が漂っていたし、その荒田の姿をファンも、そして参戦していた選手たちも称えてくれた。