ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載「今週のお務め」。18回目のテーマは、「平成ノブシコブシの吉村崇さん」について。
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「立ち位置」という言葉がありますが、それらはすべての人に割り当てられるものではありません。どんなに仕事で出世をしても、自分が望む立ち位置には辿り着けない人もいれば、想定外のポジションで思いがけない才能を発揮する人もいます。
私が居る芸能界も、数少ない「席」や「役」や「枠」をめぐり、日々たくさんのタレントたちがしのぎを削っている戦場です。
私は長らくニッチでマニアックなシーンで仕事をしていましたが、今から十数年前に突然、メジャーであるテレビの世界で「役」を頂きました。それはまさに想定外の出来事であり、そこへ向けて特段の努力をしていたわけでも、誰かと競争をしていたわけでもなく、当時のテレビ界の需要にタイミング良く私の存在が合致したに過ぎません。
その頃のテレビは、「二世」「ハーフ」「高学歴」「オネエ」がトレンドでした。私はこの4つの内の2個半を要素として持っていました。自分で言うのもなんですが、まあまあなハイブリッド人材だったように思います。
「今日は徳光の親戚として」「今日は慶應卒のインテリ芸能人として」「今日はマツコのオネエ仲間として」といった感じで、毎回出る番組ごとに、私に課せられる「役」は微妙に異なっていました。
いずれも中途半端ではありましたが、それらの「役」を務めることで、いつしか世間も「ミッツ・マングローブ」という物体を、ひとりのタレントとして受容していったのだと思います。結果、現在も「席」や「役」を頂けており、大変ありがたい話です。
さらにテレビというのは、番組のカラーや設定に沿って、タレントたちを様々なキャラクターに着せ替えます。例えば「プレバト!!」や「芸能人格付けチェック」の浜田雅功さんは、芸人・漫才師の上に「古き良きマスター・オブ・セレモニー」というキャラクターを着ています。ジャニーズのアイドルたちが報道番組の司会をしたりするのも、同じ仕組みと言えるでしょう。もちろんそれらは単なる「コスプレ」ではなく、それぞれの個性や才能があってのものです。
古くは、「元プロ野球選手」というポジションだった板東英二さんが「司会者」として成功したり、最近では俳優の谷原章介さんが「ダンディーな司会者」の代名詞的存在になったり、いわゆる本来の主戦場とは違うポジションでキャラクターを確立していく様を観るのもテレビの醍醐味だったりします。