23年、WBC決勝で米国を破る。決勝前、大谷翔平は「憧れを捨てて勝つことだけを考えよう」とチームを鼓舞した

 行き過ぎた勝利至上主義にも歯止めがかかり始めた。日本のスポーツ界にはこれまで、小学生年代から過剰に勝ちを求める風潮が少なからずあった。2022年に柔道の小学生の全国大会が廃止されたのも勝利至上主義への懸念からだ。平尾さんは続ける。

「勝利だけを求めると選別につながり、選ばれない子はおもしろくなくてやめていってしまいます。競技人口の裾野が狭くなる。スポーツはそもそも楽しむものだし、生涯スポーツとして続けられる風土があってこそ突出した選手も出てくるはずです」

東京五輪スケートボード女子パーク決勝で演技する四十住さくら。国籍を超えて喜び、励まし合う姿が感動を呼んだ

 勝ち負けよりも、楽しむ──。こうした意識は都市型の新スポーツで顕著だ。東京五輪で日本勢が金3個を含むメダル5個と大活躍したスケートボードでは、他国の選手が決めた大技を一緒に喜び、失敗した選手には皆が駆け寄って励ます姿が感動を呼んだ。女子パーク金メダルの四十住(よそずみ)さくらはJOCが行ったインタビューでこう話している。

「本当に楽しく、みんな友達とワイワイしながら、お祭りのような感じでプレーしています。それが当たり前だよね」

男子バスケットボールは世界大会で2006年以来勝利がなかったが、23年、W杯で3勝を挙げた。最終順位は19位

 日本は間もなく、本格的な人口減少期に突入する。スポーツ界も少しずつシュリンクしていくだろう。だが、こうしてスポーツを本気で楽しむ姿勢に、これからの躍進を支えるヒントが隠されているかもしれない。(編集部・川口穣)

AERA 2023年10月16日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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