その頃、たとえばあるテレビ局が「ジャニーズ事務所には噂があり、裁判にもなっているので所属タレントは起用しません」と、売り上げが下がっても完全に影響を断っていたら、食い止められた性被害があったかもしれない。その判断こそが、「企業のガバナンス」なのです。
しかし現実には、売り上げ至上主義でガバナンスを後回しにした。そんな状況は、いまに至るまで変わっていません。
売り上げばかり求めて見て見ぬふりの状況は、私にはビッグモーター社と損保ジャパンの関係とも重なって見えます。
止められるのは取引先
100%の株を握るオーナー企業のトップが「暴走」した場合、止めるのは非常に難しい。止める立場にあるとしたら、取引先企業しかないんです。ビッグモーター社ならたとえば損保ジャパンが、ジャニーズ事務所ならメディアや広告代理店やクライアント側が自らを律し、売り上げの誘惑よりもガバナンスを優先させる。これが世界基準では当たり前の潮流です。日本企業のガバナンスは20年、30年遅れていると思います。
今後、取引先企業のジャニーズ事務所との契約見直しについては様々な判断があり、答えは一つではないでしょう。またメディアも報道する立場にある以上、追及する姿勢を変える必要はない。ただ「同時に」反省と検証をきちんとやるべきです。
今回を機に性加害問題に社会がもっと目を向けて、二度と起こらないようにする。そこは紛れもなく大事なこと。でもジャニーズ事務所にその課題をすべて押しつけるという姿勢では、日本の企業のガバナンスの発展にも寄与せず、問題の根本的解決につながらないのではないか。そんな危惧を抱いています。
(構成/編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年10月16日号