ジャニーズ事務所が2度目の会見を開き、「解体的出直し」をアピールした。性加害問題をめぐる一連の流れについて、ネスレ日本元社長兼CEO・高岡浩三さんに話を聞いた。AERA 2023年10月16日号より。
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ジャニーズ事務所の会見、そして取引先企業の対応など一連の流れについて、ジャニーズ事務所「だけ」を一方的に皆で袋だたきにしていることに、とても違和感を持っています。
もちろん長い間、ジャニー喜多川氏の性加害を見て見ぬふりをし、止められなかった事務所に大きな責任がある。ただ、見て見ぬふりでこの結果を招いた責任の一端は、メディア、取引先企業、すべてにあります。
なぜ、皆で見て見ぬふりをしてきたか。日本の企業が抱える「ガバナンスの未成熟」という問題が大きいと私は考えます。
私はネスレ日本の社長時代、ジャニーズ事務所のタレントをCMや販促に一度も起用しませんでした。背景には、社員時代の鮮烈な経験があります。
20年ほど前、主要商品「キットカット」の原料である植物油脂を買っていたインドネシアの供給元が、オランウータンのすむ森林を無断で伐採しているという噂(うわさ)が立ちました。その時点でネスレは取引を断ちました。
売り上げ至上主義で
別の供給元に変えればコストが上がる可能性もあり、企業としては苦しい判断。にもかかわらず、ガバナンスを第一に考えて決断したのです。そこまでやるのかと驚きました。
社長になった後、ジャニー喜多川氏の性癖の噂は耳にしていました。人気のあるタレントを使わないことが逆に差別化になるというポリシーも私にはありましたので、ジャニーズ事務所のタレントを起用する選択は微塵(みじん)も考えられませんでした。
ではなぜ他の企業は、見て見ぬふりをしてまでジャニーズ事務所のタレントを使い続けたのか。「売り上げ至上主義」が要因としてあると思います。
ポイントは広告です。たとえば雑誌社や新聞社は購読料以外に、広告の売り上げが3割も減ればもう赤字でしょう。それほど広告は大きな産業。テレビ局も莫大(ばくだい)な利益を上げてきました。つまり広告という産業にメディア、広告代理店、芸能事務所も全部ぶら下がり、そしてその中で圧倒的な地位を築き、「守られてきた」のがジャニーズ事務所という状況でした。