西加奈子著『くもをさがす』(河出書房新社)
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西:書き続ける人はそうかもしれないですよね。それで癒えてしまったら、解決できてしまったら、書き続ける必要はないのかもしれないなって思います。

宮内:『くもをさがす』の場合は、いかがでしたか? 書いている時に西さんはかなりタフな状況にあったわけですけれども……。

西:あの本は、最後に「あなたに、これを読んでほしい」という一文を書いたんですが、読者の方が「『あなた』って、西さんのことじゃないですか?」と言ってくださって、本当にそうだなと思いました。違う世界線の「自分」に向けて書いたんだと思うんですよね。ただまぁ、本当にゲスいことを言うと、この経験を書いてカネにしたいって気持ちもありましたけどね。

一同:(笑)

宮内:ほんの少しだけ、元を取れましたか。

西:元を取らせていただく以上でした! 部数にももちろんびっくりしていますけど、読者の方からいっぱい手紙をいただけるのが本当に嬉しいんですよ。日々、大切なことを教えてもらっています。

宮内:私は、腎臓の数値が悪くてだいぶ落ち込んでたんですけれども、『くもをさがす』を読んで、こんなことで落ち込んでいられないなと思いました。

西:いやいや、落ち込んでええよ!

一同:(笑)

西:腎臓、大切やから。

大切なことだからこそクリシェになる

西:カナダで乳がんになり、手術した経験から決定的に理解することになったのは、自分の体は一つしかない、この体で自分の人生を生きていくしかないということでした。だからこそ、病状以外のところで自分に何が起こってるのかを知りたかったんですよ。例えば、誰かが怖いという言葉を発明してくれたから、自分の感情にその言葉を当てて使うんだけど、本当のところは怖いだけじゃないかもしれない。もしかしたらちょっと甘やかな気持ちもあるかもしれない。こんな経験なかなかできないから、探りたい、書きたい、残したいって気持ちがありました。そうすることで私の場合、わかりやすく救われました。さっき宮内さんが、自分にとって書くことはセラピーで、人生の経験や記憶を整理することだとおっしゃいましたが、私も全く同じことをしていたと思います。

宮内:……自分で言っといて何ですけど、書くことがセラピーって、よくあるクリシェすぎて恥ずかしくなってきました(笑)。

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