AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。31人目は宮田利男八段です。AERA2023年10月9日号に掲載したインタビューのテーマは「印象に残る対局」。

みやた・としお/1952年10月29日生まれ。70歳。秋田県大曲市(現・大仙市)出身。72年、四段昇段。98年、三軒茶屋将棋倶楽部をオープン。2017年、現役引退。現在も後進の育成を続ける(photo 横関一浩)
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「君が将来、名人と竜王になったら、その賞金半分持ってこい。それだったら許す」

 宮田利男が師匠として奨励会受験の願書にサインを求められたとき、小5の伊藤匠少年(現七段)にそんな条件をつけた。もちろん冗談だ。

「そしたら伊藤は『はい、わかりました』っていうんだ。みんな伊藤をおとなしいと思ってるでしょ。意外と調子がいいんですよ」

 宮田は自身が経営する三軒茶屋将棋倶楽部において長年、少年少女たちに指導を続けてきた。伊藤が通い始めたのは、5歳のときだった。

「いまじゃ堂々としてるけど、幼稚園の頃はまだオタオタしてたんだ。『たっくん』って名前呼ぶと『はい』って返事がだんだん細い声になっちゃって。『どうしたんだろう?』と思ったらね。うちのかみさんいわく『あんた、声が大きいから怖がってんだよ』って。『あ、そうか』と思ってすぐ直した(笑)」

 斎藤明日斗少年(現五段)がアマ三段のとき、六枚落ちで宮田と指すことになった。いくら相手が棋士とはいえ、大きすぎるハンディだ。

「負けたら1億円あげます」

 斎藤少年はそう言った。しかし棋士が本気を出すと怖い。

「口で負かしちゃったんだよね。『あーいけねえ、またやっちゃったよ』とか言って」

 先生がボヤいてたのはフェイクだった。少年はきれいに罠にはまり、敗れた。

「斎藤に『いつ1億円払うんだ?』って言ったら『宝くじが当たったら』だって。そう言うけどあいつ、たぶん宝くじなんて買ってないよね」

 斎藤に尋ねてみた。

「宝くじは買ってないです。1億円はそろそろ、時効にしてもらいたいですね(笑)」

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門下から3人の棋士が輩出