宮田門下からは現在まで、本田奎六段(26歳)、斎藤(25歳)、伊藤(20歳)と、3人の棋士が輩出している。

「3人で意識しあって勉強してて、本当にいいことだと思ってるんですよ」

宮田利男は最近「スーパーで転んじゃった」というアクシデントのため、左腕をけがしてしまった。それでも、この日も変わらず、三軒茶屋将棋倶楽部で元気な姿を見せていた(photo 横関一浩)

 21年、伊藤は新人王戦で優勝。早くも大器の片鱗を見せた。一方で同学年の藤井聡太はその頃、竜王を獲得して四冠に。いずれ両者がタイトルを争う可能性はあるのか。宮田は何度も尋ねられてきた。

「『25歳までには必ずあります』と言っときました。そうだよね?」

 表彰式の壇上で、師匠は弟子にそう問いかけた。

 今年23年。伊藤は竜王戦で勝ち進んだ。伊藤が広瀬章人八段(元竜王)と対戦する際、宮田は久々に東京・千駄ケ谷の将棋会館を訪れた。

「ちょうど斎藤は元名人(佐藤天彦九段)と対局してて。『こりゃどっちもダメだよな』と思ってたら、どっちも完勝でね。『なんだこりゃ』とびっくりした。『もう私がとやかく言うようなことはないんだ』と思った」

 伊藤はその後も快進撃を続け、20歳にして藤井竜王への挑戦権を獲得した。

「『決勝トーナメントに出ただけでもすごいわ』と思ってたから、挑戦なんて想像もしてなかった」
(構成/ライター 松本博文)

※AERA2023年10月9日号では、伊藤匠七段の激励会についても語っている。2021年春から今春までのこの連載をまとめた『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』(朝日新聞出版)が発売中
 

こちらの記事もおすすめ 「一歩一歩、歩む」シャイで真面目な努力家・松尾歩八段が語る藤井聡太の歴史的妙手
[AERA最新号はこちら]