確実な予防法はないものの、食事と運動が重要
パーキンソン病と関係の深い病気に「レビー小体型認知症」があります。レビー小体とは異常なたんぱく質の塊で、レビー小体型認知症では判断・知覚・思考などに関わる「大脳皮質」に広く分布することがわかっています。一方、パーキンソン病では体の動きの調節に関わる「中脳の黒質」にレビー小体がたまります。進行すると大脳皮質に広がって、認知症を伴うことがあります。どちらも「レビー小体病」と位置づけられ、運動症状が先に表れるのがパーキンソン病、認知機能障害が先に表れるのがレビー小体型認知症とされます。
パーキンソン病と診断された20年後には、約8割が認知症を発症したという報告もあります。パーキンソン病に認知症が合併した場合は、パーキンソン病の治療とともに認知症の治療薬も使われます。薬は認知症を完全に治すものではなく症状の進行を抑えるもので、早めに使うほうがよいといわれています。パーキンソン病に伴う認知症で早期に表れやすい症状に、「手順がわからなくなり、それまでできたことができなくなる」「注意力が続かず忘れ物が増える」「見えているものを誤って認識する」などが挙げられます。これらの症状に気づいた場合は、主治医に相談するようにしましょう。
パーキンソン病は高齢の人に多く、加齢はパーキンソン病の危険因子であることがわかっています。発症にはほかにもさまざまな要因が関わると指摘されていますが、はっきりとしたことは解明されておらず、確実な予防法は見つかっていません。とはいえ、できることは何かないのでしょうか。
「腸内環境とパーキンソン病の関連が研究されていて、腸内細菌が発症の鍵を握っているのではないかといわれています。また、非運動症状のひとつである便秘は、発症前から起こっていることもあります。健康維持のためにも、食事に気をつけて腸内環境を整え、便秘しないようにするといいのではないかと思います。日ごろから運動するのもお勧めです。パーキンソン病の治療では、薬物療法とともに運動が推奨されています。運動することで発症を抑えられるという証拠はまだありませんが、適度な運動は健康の基本といえるでしょう」(大山医師)
(文/山本七枝子)
【取材した医師】
国立病院機構宇多野病院 臨床研究部長/京都大学医学部 臨床教授 大江田知子医師
1993年、大阪市立大学医学部卒。2003年、京都大学大学院で博士号取得。01年から国立病院機構宇多野病院脳神経内科。脳神経内科医長を経て、16年から現職。診断から進行期にいたるまで、パーキンソン病を中心とした脳変性疾患の診療に携わり、「最適な治療は患者さんを知ることから」をモットーにコミュニケーションを大切にしている。専門医の少ない地域での保健所による個別医療相談にも取り組む。
国立病院機構宇多野病院:京都市右京区鳴滝音戸山町8
順天堂大学順天堂医院 脳神経内科 准教授 大山彦光医師
2002年、埼玉医科大学医学部卒。10年、順天堂大学医学研究科で博士号取得。米フロリダ大学Movement Disorder Center フェロー等を経て、14年4月から現職。脳深部刺激療法(DBS)治療のチームリーダーを務めるほか、遠隔地にいる患者の体の動きを3次元でとらえる3次元オンライン診療システムの開発にも携わる。患者会(パーキンソン病友の会)のイベントに参加するなど、患者との交流にも力を入れている。
順天堂大学順天堂医院:東京都文京区本郷3-1-3
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