女性医師の割合は増えていて、女性外科医の割合も増えてきています。しかし育児とキャリア形成との両立には、いまだ多くの高い壁があるのも事実です。好評発売中の週刊朝日ムック『医学部に入る2024』では、ハードワークで知られる消化器外科を選び、28歳で第1子を出産。2人の小学生を子育てしながら働く林沙貴医師(金沢大学附属病院 消化管外科)の体験談を伺いました。同ムックの記事をお届けします。
【図表】女性外科医 2人の小学生を子育てしながら働く林沙貴医師の略歴はこちら
「日本の外科医の男性と女性の手術経験格差」のレポート記事も併せてご覧ください。
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「医学部の学生だったときには、外科医になるなんて考えもしなかったんです。『手術なんてしない科に入りたい』とまで思っていたほどです(笑)」
林沙貴医師からはそんな意外な答えが返ってきた。外科医になりたいと思ったのは、医学部5年生の病院実習のときだったそうだ。
繊細な技術が求められる消化器外科にみせられて
「外科の先生たちがイキイキ働いていてすてきだったんです。手術で人の命を救える仕事ってすばらしいなぁと素直に思えました」
林医師が医師を志した背景には、小学6年生のときに祖父を肺がんで亡くした経験がある。手術をして「これで治る」と喜んだ1年後に他界してしまった。
「だからこそ、手術で命が救われる人を増やしたいと思うようになったのかもしれません」
外科医のハードさは耳にしていたが、先輩の男性医師に相談すると「女性でも育児をしながら働いている外科医はいるよ、大丈夫!」と励まされた。
「ただ、働いている女性外科医の先輩の多くは乳腺外科医です」と林医師は振り返る。
乳がんなどの手術と治療を担う乳腺外科は、女性医師の比率が高い科だ。比較的手術時間が短く、患者の急変も少ないため、子育て中の女性医師も多い。患者と同じ女性であることが有利に働くこともある。林医師も出産育児後は乳腺外科専門医を目指したが、配属された病院の都合で、乳腺診療もしつつ胃や大腸など消化器の手術も担当。いつしか消化器手術のおもしろさに目覚めていた。
「胃や腸の手術はとても繊細で、膜一枚一枚の構造を考えながら手術する必要があります。切除したあとの再建にも高い技術が求められます。大ベテランの先生方がいくつになっても研鑽(けんさん)を積む姿にも感銘を受けました。私もこの世界で一生チャレンジし続けたいと思うようになったのです」