2021年11月25日、南アフリカで発見された変異株オミクロン株は、その後世界中に急拡大した。日本の水際対策は、外国人の全面的な新規入国停止へと強化。G7で最も厳しいこの対応について、岸田は記者団に「慎重の上にも慎重に対応すべきと考えて政権運営を行っている」と説明し、その後の内閣支持率の上昇をもたらした。この時の「成功体験」が、世論を気にするあまり、ワクチン接種などの対応変更や出口戦略といった政治判断への足かせとなっていく。朝日新聞首相官邸クラブが積み上げてきた事実から、岸田官邸の輪郭と内実が浮かび上がる。朝日新聞の連載企画「岸田官邸の実像」をまとめた新著『鵺の政権』(朝日新書)から一部抜粋、再編集し、紹介する。
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繰り返された過ち
岸田政権にとって最大の誤算は、新型コロナワクチンの3回目接種の間隔だった。
「自治体が混乱している。原則は8カ月だということを丁寧に説明してほしい」
2021年11月26日、首相官邸の執務室。岸田は、ワクチン接種を担う厚生労働相の後藤茂之とワクチン担当相の堀内詔子から状況説明を受けると、迷いなくそう指示した。
その10日ほど前。2回目からの接種間隔について、厚生労働省は当時海外で主流だった8カ月を採用。ただし、状況次第で6カ月に前倒しできる「例外」をつけたことで、自治体から「準備が整わない」などと反発を招いていた。