夏井:遊里を舞台にすると、どんなに美しい女を詠んでも、どこか悲しさが付きまとってしまう。意のままにならぬ人生、逃れられない運命のようなものが伝わってくるよね。
でも、それが禿になると、そのいとけなさで、一瞬容赦のなさが緩和される気がしちゃう。もっとも、この子たちもいずれ……と想像してしまうわけだけど。
奥田:時代背景も絶妙です。「遊女」や「禿」と聞くと、僕らはどうしても江戸時代の風俗をイメージしてしまいがちだけど、子規が生きた時代というのは、江戸と現代のちょうど端境期。江戸情緒がバリバリ残っているかと思うと、近代を感じさせる瞬間もある。そんな時代がクロスする風俗を子規の句で読み取れるのが、これまた贅沢この上ない。
「遊女」を買いに行く男たちを眺めても、和装の人間もいれば、短髪に洋装の奴もいるんだろうなと。
夏井:なるほど。風俗を描いた作品としても俳句を読んでいるんだ。そこも映画監督ならではの読み解き方だなあ。