大きなジャンルに成長
もともと途上国支援の仕事を希望していた工藤さんはその頃、商社の不動産投資部門を辞めて、支援の勉強のために米国の大学に留学していた。金融という分野から途上国支援に力を貸せるかもしれないと、インパクト投資の勉強会などに足しげく通うようになった。
日本に帰ってきたのは11年。インパクト投資の先駆けとして知られるロックフェラー財団同様、インパクト投資の多くを担うのは「財団」だと考え、日本最大の財団、日本財団に入職。組織内ベンチャーとしてインパクト投資の研究調査機関を立ち上げ、17年には「社会的投資推進財団(現・社会変革推進財団)」として独立を果たした。
その後、インパクト投資の対象になる企業が、本当に社会にインパクトを与えているかを数値化する測定基準なども整って、大きなジャンルに育った。
「インパクト志向の投融資残高は、グローバルで1兆ドル、国内で5兆円を超えていることが確認されています」(工藤さん)
ちなみにインパクト投資は、最近よく聞く、環境などに配慮した企業に投資する「ESG投資」と重なる部分も多いが、「ESG投資よりさらに、社会的インパクトに重きを置いた投資という位置づけです」と工藤さん。
りそなグループの運用会社「りそなアセットマネジメント」も、上場企業を対象にしたインパクト志向の金融商品の開発に早くから取り組み、21年には日本株式と世界株式の二つのインパクト投資の運用を開始した。
「そのひとつ『グローバルインパクト投資ファンド(気候変動)』は、気候変動の緩和、気候変動の影響への適応などにビジネスとして取り組み、社会的インパクトを生むことが期待できる銘柄を厳選した投資信託です」(チーフファンドマネージャーの井浦広樹さん)
風力発電用タービンのトップ企業として、21年に1808万トンの温室効果ガスの削減に貢献した米国GEなど国内外の約30銘柄に投資している。
「運用業務の新卒採用の面談では、かつての投資で収益をあげたいという学生に代わって、投資を通じて社会のために何かしたいと志望する学生が増えています。社会的インパクトを生もうと意識する会社こそが、人財を惹きつけ顧客にも信頼されて大きく成長を遂げる日は遠くないと思っています」(同社株式運用部長・蔦谷智之さん)
(ライター・福光恵)
※AERA 2023年10月2日号より抜粋