環境、教育、福祉など社会問題の解決につながる社会的インパクトを、投資先の決め手にしようという動きが起こっている(撮影/掛 祥葉子)
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 リターンとリスクを天秤にかけて投資先を決めていたあなた。いま、第3の物差し「インパクト」が注目されているんです。AERA 2023年10月2日号より。

【図表】個人が買えるインパクト投資商品の例がこちら

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新NISAってすごいらしい」

 テレビのバラエティー番組を見ていたら、芸人がギャグの合間にそんな“ひとこと投資情報”をはさんできたので驚いた。

 だって日本といえば、世界に知られる投資後進国なはず。日銀の調べによると、2023年1~3月期、日本の家庭で保管されている現金、いわゆる「タンス預金」は約107兆円。投資嫌いの貯め込み大国として知られるからだ。

 そんな現金を掘り起こそうと、国が10年近く前から始めたのが、NISA(少額投資非課税制度)などの非課税制度だった。何よりのメリットは、投資信託の利益に通常約20%かかる税金が非課税になること。そのパワーアップ版で、「すごいらしい」と芸人も言わずにいられない新NISAが、来年の1月1日にスタート。日本でも投資への注目がじわりと広がってきた。

お金のリターンも期待

 さらにゆったりしたスピードで広まってきている投資がある。「インパクト投資」だ。インパクトとは、社会的インパクトのこと。ざっくり言うと、社会にいい影響を与えている「いい会社」に対してする投資のことだ。

 どこの何に投資しようかという決め手になっていたのは、これまでは「リスク」と「リターン」の二つの物差しだった。このリスクとリターンに加わった第3の物差しが「インパクト」だ。これまでも寄付などで、そうした「いい会社」を応援する方法はあった。でもインパクト投資は、金融商品のひとつとして、お金のリターンも期待できることが特長だ。

 知人のフリーライター女性(45)も最近、早期退職で得た退職金でインパクト投資を始めた。

「大変な思いをして手にした退職金。どう使われるかわからない銀行預金ですら、抵抗がありました。でもタンスで寝かせておいても意味はない。使わないお金は、自分の代わりに、いいことのために働いてもらいたいと思ったんですよね」

 投資である以上、元本が減る可能性はゼロではないが、「それでも、損した、と悔しい思いをしないでいい投資先がほしかった」(女性)。

 インパクト投資の研究などをおこなう「社会変革推進財団」で常務理事を務める工藤七子さんは、インパクト投資の考え方を日本に持ち込んだ一人として知られている。

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