美味しいおにぎりでローソンで実践した客の欲求の引き出し

 ここで「ビジネスとは常に、客が何を求めているか、と考えることだ」と学ぶ。その後、三菱商事が筆頭株主になったコンビニ大手ローソンの社長になって、この経験をしておいて本当によかった、と思う。例えばローソンへ転籍してまもなく発売した「おにぎり屋」。おにぎりに使うコメの等級を引き上げて大ヒット。価格は少し高くなってもより美味しいものを、という欲求を引き出す。

 2014年10月、サントリーホールディングスの社長に就任する。創業家出身の佐治信忠・現会長が、呼んでくれた。佐治さんとは、ローソン社長になった直後に縁ができた。13歳も年上だが、食事をすると酒を注いでくれ、面白い話を聞かせてくれる。「年長者に可愛がられる」という点も、『源流』にあったようだ。

 実践派だから、国内各地の取引先に顔を出すし、海外で買収した子会社も巡る。でも、「お山の大将」ぶりも薄まり、部下たちに任せる範囲が広がった。そのゆとりが、この4月に就任した経済同友会のトップ、代表幹事の役を引き受けさせた。

 同友会には、財界活動の師となった牛尾治朗・元ウシオ電機会長の勧めで、40代の半ばに入会。副代表幹事を務め、東京オリンピック招致の先頭にも立った。牛尾氏は今年6月に92歳で天寿を全うしたが、あのときに「事業をやるだけで精一杯です」と言うと「それじゃあダメだ。経営者はもっと世界をみなければいけないし、日本のために尽くすという気概がないのかね。ぜひ、入りたまえ」と言われた。鮮明に覚えている。ここにも「年長者に可愛がられる」という流れがあったようだ。

 代表幹事としては、何でも分かっているかのようにコメントする「評論家」にならず、牛尾さんのような提案型オピニオンリーダーを目指す。それが、実践派の本領だろう。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年9月25日号

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