AERA 2023年9月25日号より

 男性は、昨年7月から定期的に参加するようになり、数カ月後には人とのやり取りに自信を持てるようになっていた。そのタイミングでサポステの職員から、パソコン講師の仕事を提案され、引き受けることにした。今では対面での仕事にも慣れ、週に2回の勤務をこなす。

 デジタル技術を活用する自立就労支援に詳しい山口大学大学院の林裕子特命教授は、こうした支援の最大のメリットは、希望すれば匿名で参加でき、「心理的安全性」の高い状態が保たれることだと話す。

「安心感が土台にあって、支援者がさりげなく介在することで、参加者同士の『横のつながり』を作りやすい。メタバースは、科学技術を用いながらインクルーシブな社会を実現していく手段の一つになるでしょう」

「ふくおかバーチャルさぽーとROOM」では、バーチャルな空間にも、サポステの支援室を再現するような「部屋」を構築。林教授は、バーチャルな空間づくりも、仕掛け自体はかなりアナログなのだと明かす。

「『部屋』の壁に、デジタルの絵画作品が飾ってあって。これ、実際の支援室にも飾られているんですよ。メタバースでつながった人を対面での支援に移行した際、会話の材料にもなるんじゃないかと。リアルな支援とシームレスにつなげる仕掛けです」

 同事業では、心理士など専門家も相談者もアバターを通じて会話する「アバター個別相談」を行っている。これまでに約30人が相談を受け、8人が就職に結びついた。(ジャーナリスト・古川雅子)

AERA 2023年9月25日号より抜粋