パソコン講師として働く福岡県八女市の男性。「ふくおかバーチャルさぽーとROOM」で開催しているひきこもり当事者の交流会への参加が転機となった(撮影/NPO法人JACFA提供)
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 ひきこもり状態にある人を社会や就労につなぐ支援として、メタバースの活用が注目されている。なぜメタバースなのか。福岡県の取り組みから、そのメリットに迫った。AERA 2023年9月25日号より。

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 パリッとしたワイシャツに身を包み、マンツーマンで受講者にパソコンの使い方を指導する。福岡県八女市の男性(40)は、今年1月から久留米市内でパソコン講師を務めている。

 男性は、昨年まで10年余にわたり、実家にひきこもっていた当事者だ。今年9月初旬、オンラインで取材に応じた。話してみて、講師に向いていると感じた。声にハリがあり、語り口が柔らかだからだ。

 だが、「かつての自分」は今とは大きく違っていたという。自身がひきこもっていた頃の様子をこう打ち明けた。

「以前は人前で話すと、どもってしまって……。20代の頃から対面で話すことが、とても怖くなってしまったんですよね」

 きっかけは、22歳で経験した就職先の倒産だった。個人経営の学習塾に就職したものの、経営不振に陥り、わずか半年で廃業。事業の悪化とともに、右も左もわからない新人の自分にも、職場の人から叱責が飛んだ。男性は自信を失い、「自分は生徒募集の力にもなれなかった」「疫病神」と自責の念に駆られるようになった。人前に出られなくなり、以来、7年ほど実家にひきこもった。

メタバースで交流会

 その後、職業訓練校に通った後に就職活動で再び挫折し、家から出られない日々に逆戻りした。合算で15年近くひきこもることとなった。

 転機が訪れたのは昨年の春だ。電話での相談支援を受けていた「筑後若者サポートステーション(サポステ)」の職員から、こう声がかかったのだ。

「『外に出られない』『対面で人と話せない』といった悩みを持つ当事者が集う『メタバース』での交流会を始めるんですよ。参加してみませんか?」

 コロナ禍も相まって、社会全体にデジタルトランスフォーメーション(DX)が浸透してきたこともあり、メタバースを使った支援が全国各地に広がりを見せている。

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