記念撮影に臨む岸田文雄首相(前列中央)と閣僚ら=9月13日、首相官邸
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 岸田文雄首相が踏み切った内閣改造・自民党役員人事。ふたを開けてみると大胆さがなく、刷新感に欠ける人事だった。今回の人事から透けて見えるものとは──。AERA 2023年9月25日号より。

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 岸田文雄首相は「人事好き」だ。安倍晋三政権で外相を務めていた時、安倍首相や菅義偉官房長官から外務省幹部の人事を押し付けられ、煮え湯を飲まされた。その苦い経験から、自分が政権のトップに就いたら政府・自民党の幹部人事を思い通りにやると決意したという。

 その岸田氏が踏み切った内閣改造・自民党役員人事。ふたを開けてみると、女性閣僚を2人から5人に増やしたものの、主要閣僚や党首脳は留任。刷新感に欠ける人事となった。茂木敏充幹事長の交代を考えたが、かなわず、安倍派(100人)幹部の閣僚・党役員の交代もできなかった。岸田派(宏池会)は第4派閥(46人)で、内閣支持率は低迷。政権の足元が弱いから、大胆な人事も断行できない。岸田氏がそんな悲哀を味わった人事である。局面打開のため、非力な岸田首相が衆院の解散・総選挙に打って出るのか、それとも押しつぶされるのか。改造後政局の焦点となってきた。

 この人事には三つのポイントがあった。まず、来年秋の自民党総裁選に向けた再選戦略。第3派閥の茂木派(54人)を率いる茂木幹事長はポスト岸田に意欲を見せているが、岸田首相は茂木氏の出馬を封じて再選を確実にしたい。岸田氏は「協力するなら幹事長留任」というカードをちらつかせて、茂木氏の反応を見た。茂木氏は「総裁選不出馬は確約できないが、外相などへの横滑りなら受けてもよい」といった反応で、両者の神経戦が続いた。第2派閥(55人)会長の麻生太郎副総裁の仲介もあって、総裁選に向けた茂木氏の対応はあいまいなまま、留任が固まった。

透ける解散戦略

 結果的には岸田氏が麻生、茂木両氏に押し込まれた格好となった。総裁選は本来、正々堂々と戦うべきなのに、策を弄した岸田氏の「自滅」ともいえる。茂木氏をけん制するために、同じ茂木派でも関係がぎくしゃくしている小渕優子氏を党4役の選挙対策委員長に起用したものの、麻生・茂木ラインを封じ込められるとは限らない。

 第二に、この人事から岸田首相の解散戦略が透けて見える。2024年になると、1月から始まる通常国会では野党の攻勢を受ける。当初予算案や関連法案が可決、成立する4月までの解散・総選挙は難しい。秋の総裁選が近づくにつれて、自民党内では「総選挙は岸田さんに代わる新しい顔で戦いたい」という声が高まるのは避けられない。政権は徐々に「死に体」となっていくだろう。

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