トップによって変わる
それから、環境を疑うのではなく、一度その環境に身を置いてみるのもラグビー経験を通して学んだことです。当時の早稲田大学ラグビー部は、体育会にありがちな、ただ一般的には理不尽と思えることがたくさんありました。でもそれは、自分の常識と違うだけ。その環境のなかでできることをすべきです。
大学卒業後、私は新卒でNTTドコモに入社しました。大手企業で条件もよく、いろいろな制度も整っていました。一方、その後転職した人材サービス会社は残業も多く、前職と比べると不満に感じることが多かった。でも、それに文句を言っているだけだったらそこで成長が止まって、今の自分はなかったと思う。その環境下で自分が一番になるにはどうしたらいいかを考えていました。もちろん、本当に不当な要求やハラスメント、身を崩すような環境も受け入れろという意味ではありません。
大学4年のとき、清宮克幸さんが早稲田の監督になりました。練習時間は半分になり、すべてが効率的になった。それまでの根性論のようなものはなくなってプレーの良し悪しも明確にわかるようになり、強くなるための最短ルートが示されました。トップによって組織が変わる経験は今につながっています。
先ほど話したように、大学ラグビー生活では後悔もあります。数年間は自分が公式戦に出てプレーしている夢を見たりもしました。それでも、「早稲田大学でラグビーをする」と決断してチャレンジしたことは本当に良かったと思う。今の自分を形作っています。
安藤広大さんが選ぶ注目選手
まず名前を挙げるのが、初選出となった福井翔大選手だ。福井選手は名門・東福岡高校を卒業後、大学を経ずにプロ入りした。日本のトップ選手では異色の経歴だ。
「大学ラグビーが社会人よりも人気が高く、大学に行くのがいわば『当たり前』のなかで若いころから人と違うチャレンジをし、成果を出して代表に選ばれてきた。彼のような選手の活躍が停滞を打破するロールモデルになっていくかもしれません」
もうひとり、こちらも初選出の長田智希選手を挙げる。早稲田大学出身のセンターだ。
「私もセンターだったから、やはり後輩の活躍は気になります。ひいき目なしに見てもすごい選手ですよ」
(構成/編集部・川口穣)
※AERA 2023年9月18日号