「坂」が付く地名

 現在のような住居表示のない江戸時代、「〇〇+坂」で、ある程度の場所を示すことができた。ただ、坂の途中から富士山が見える「富士見坂」のように、「同名異坂」も多かった。

 オフィス街や高級料亭があり、大人な雰囲気をまとう「赤坂」は、この付近が「赤土」の土地だった、茜(アカネ)の群生があったなどが由来と言われている。江戸時代は旗本の屋敷が並んでいたエリアだ。「九段坂」は、将軍の警護にあたる大番組が住む「番町」に至る斜面にあった9層の石段と、「九段屋敷」という幕府の施設にちなんで名付けられた。

 趣のある古き良き建物がひしめく「神楽坂」は、重くて坂を上れなかった祭礼の神輿(みこし)が、神楽を奏したら簡単に上ることができた、というのが由来だという(諸説あり)。渋谷駅近くの繁華街にある「道玄坂」は鎌倉時代、幕府と戦い敗れた御家人の残党、大和田太郎道玄が、山賊になってこのあたりに出没したのが由来とされる。

「台」や「山」が付く地名

「白金台」は高台地域にあり、この地を開いた柳下上総介氏が白金長者と言われていたことが地名の由来

 低い土地を見晴らせる場所に「台」、低地から見て高い場所に「山」という地名が付いた。ただ、山より高い建物が多いので、意識しないと土地の高さはわかりにくい。

 JR御茶ノ水駅付近の「駿河台」は、武蔵野台地の南端にあたる土地。ここに立つニコライ堂からは、竣工(しゅんこう)時(1891年)は東京一円が見渡せたという。港区の南西に位置し、高級住宅街が立ち並ぶ「白金台」は、江戸城の南側に点在する標高が高い土地だ。室町時代にこの付近を開墾し「白金長者」と呼ばれた柳下上総介に由来する。

 東京タワーの近くに位置する「愛宕山」は、周辺に100メートル以上の建物が並んでいるが、ここの標高25.7メートルは23区で最も高い。江戸時代は素晴らしい眺望が楽しめた。JR王子駅の線路に隣接するこんもりとした森「飛鳥山」は、8代将軍徳川吉宗が植林した桜があり、花見スポットとして有名。最近では渋沢栄一の私邸があることで話題となった。

JR王子駅の線路に沿って盛り上がる緑の小山が「飛鳥山」。春になると桜のピンク色に染まる
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地名から立ち上る東京の往時の姿