ここでも次男の気持ちより、手紙の汚れを避けるという体面が優先された。明石さんは「直接会いたい」と家庭を訪問したが、その日、次男は朝から外出し、外部との接触を頑なに拒否した。

 そして、支援機関との唯一の窓口だった母親は、コロナ禍に骨折して入院、退院間際にコロナの感染者が出て入院が長引いたことで認知症が進行してしまった。次男へのアプローチは今、より困難になっている。母親の代わりに、父親が息子のために支援機関に出向くことはない。

 母親が子どもの面倒を見過ぎるケースも多いという。80代父親は元校長、同年代の母親は専業主婦という夫婦だが、50代の娘と息子が両方ひきこもっている。娘は発達障害で精神障害者保健福祉手帳を持ち、障害年金とテープ起こしの仕事で対価を得ているが、母親が娘を離さない。

「とにかく、母親がべったり。お互いの病院にも一緒に行くし、娘のためにと提案した女性の居場所にも母親が付いてくる。『テープ起こしがしんどい』といえば、お母さん、『じゃあ、やめなさい。やらなくていいから』と。そうやって家から出そうとしない。『あの子は、私がいないとダメなのよ』、と」

 息子の存在は外側からはうかがい知れない。息子にも発達障害の傾向があると明石さんは感じているが、「いい家庭」という体面を重視し、両親は子どもを家に引き込み、外に出さない生活をさせている。元校長の父親は家事や子育てを妻に任せて、家族に関わらない。(ジャーナリスト・黒川祥子)

AERA 2023年9月11日号より抜粋

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