80代の高齢になった親が、社会からひきこもった50代の子どもの生活を支える──。いまや8050問題は社会全体の課題だ。長いコロナ禍の裏で、当事者たちの孤立化は一層進んだ、と識者は指摘する。AERA 2023年9月11日号から。
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「8050問題」にコロナ禍はどのような影響をもたらしたのか。長年、中高年ひきこもりと家族の支援を続けている「NPO法人 遊悠楽舎」(神奈川県逗子市)代表、明石紀久男さんは孤立化がより進んだと見る。
「コロナ禍で露呈したのは、日本社会の閉鎖性。これがひきこもっていた人たちにはかなり堪えた。今まで聞こえなかった男性の声や夫婦げんかの物音が聞こえるだけで、心理的恐怖を感じ、奥深くひきこもるようになったケースもあり、孤立が深まったと思います」
「8050問題」が世に注目されたのは2019年、立て続けに起きた二つの事件(登戸殺傷事件、元農林水産事務次官による息子殺害事件)による。
中高年ひきこもりは、それまで見えない存在になっていたが、犯罪という不幸な形で社会のただ中に出現した。同年に内閣府が公表した調査では40~64歳のひきこもりが推計約61万人で、15~39歳の同約54万人を上回ることがわかった。ひきこもりは高齢化問題でもあることが明らかになった。
ひきこもりの長期化は、「話し合えない家族」を作ってきた、家族の病理だと明石さんは見る。
「相談が親からあっても継続しないのは、経済力があって養えるから。親にとって大した問題になっていない。『家の恥』としてひた隠しにしてきたのが、長期化の原因でしょう」
明石さんが相談室で相対する家族で目立つのは、強い父親と夫から三歩下がって従う母親の姿だ。夫が一方的に話し、最後に妻に「おまえ、何かあるか」と聞く、主従関係のような夫婦が多い。
ある父親は90代前半、母親は80代後半。50代の次男は仕事に挫折、20代半ばで家に戻り、自室にひきこもった。