古賀茂明氏
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 日本でもお馴染みの米国のITジャイアント企業のCEOが、最近日本のIT関係者に、「自分は何かがわかっていない。何を見落としているのだろう。教えてくれ」と尋ねているそうだ。

【模型】経産省肝いりの「ラピダス」が新しくつくる工場はコチラ

 何のことかと思ったら、岸田政権と経済産業省が総力を挙げて進める最先端半導体製造プロジェクトのことだった。民間企業の出資がわずか73億円しか集まらないのに、政府が700億円も出資してスタートした「ラピダス」社が、まだ世界中のどの企業も量産化していない2ナノ(ナノメートル。10億分の1メートルのこと)レベルの半導体を、札幌に工場をつくって早ければ2027年にも大量生産を開始するという。試作ライン建設に2兆円、量産化ライン建設に3兆円かけるという壮大なプロジェクトだ。民間から資金が出ないので、経産省はすぐに2600億円の追加支援を決めた。過去の半導体王国日本を知る人たちは、これが日本半導体復活最後のチャンスだと意気込んでいる。

 その様子を見て、冒頭に紹介したCEOが、「これは失敗するに決まっている。だが、経産省はこれに大金を投入し始めた。普通ならそんなバカなことをするはずがない。ということは、自分が知らない何かがそこにはあると考えなければならない。それは一体何なのか」と不思議に思っているというわけだ。

 実は、彼の疑問は決しておかしなことではない。多くの世界の専門家たちもこれは無謀だと見ている。

 しかし、日本ではラピダスの失敗を表立って予想する専門家は少なく、大手新聞も、悲観的な見通しは伝えない。

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