インドから半導体の設計人材の供給を受ける方向で日印政府が合意したという「明るい」報道もあったが、インドには最先端半導体の設計や製造のノウハウはない。もちろん、ソフトウェア・エンジニアなどで日本よりはるかに優秀な人材が多数いるのは事実だが、最優秀な人材が、ラピダスに来るとは考えにくい。TSMCやサムスン、エヌビディアやアップルなどのビッグテックとの人材獲得競争では、圧倒的に不利な状況に陥るはずだ。
また、IBMの協力を得るというが、ある専門家は、IBMの優秀な人材が札幌に多数常駐するとは考えられないという。札幌には英語で高度な教育を受けられる環境もないし、国際的に名の通った病院もない。失敗する確率が高いラピダスのために米国の最先端企業の優秀な人材が家族を連れて移住するのはかなり難しいというのだ。
さらに、ラピダスが仮に最先端半導体を作れたとしても、それを誰が買うのかという問題もある。TSMCやサムスンは既に3ナノの大量生産に入った。早ければ25年には2ナノレベルの量産も始まる勢いだ。彼らはラピダスのはるか先を行くのである。
そもそもラピダスの2ナノのラインで製造するためには前述のとおり、そのライン専用のEDAやIPが存在することが大前提だが、そんなものはできそうもない。ということは、アップルやエヌビディアなどの潜在的顧客を含め、どこの企業もラピダスに製造委託をするための設計開発を行うことができない。ラインはつくっても開店休業状態になるのだ。
以上、専門家に30分インタビューしただけでもすぐにわかる問題を並べてみたが、ここに書いたことはこれからラピダスがぶつかる難題のほんの一部に過ぎない。
それを考えると、冒頭のIT巨人のCEOがなぜラピダスに無謀とも思える資金を投入するのかわからないと言っていたのは、確かに的を射ていると思わざるを得ない。
数兆円の資金が、結果的に無駄に終わりましたということになれば、それは全て我々国民の負担である。だが、その時起きることは、誰も責任を取らないままうやむやにされるということだ。それがこれまでの日本の産業政策失敗の歴史である。
逆に言えば、責任を取らなくて良いから、こんな無謀な計画が進んでしまうのである。
「無責任国家日本」が自暴自棄になって無謀な大博打に出た。
一歩下がって冷静に見れば、それが客観的真実なのではないだろうか。
ところで、最先端半導体を製造する側だけでなくそれを使う側を見るとどうなっているのか。