最先端半導体製造に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置はオランダのASML社の独占で、需給がタイトなため簡単には入手できない。これについて、メディアは、ラピダスが「24年末には入手できる目処がついたと発表した」と、さもすごいことが起きたかのように報じた。そのすぐ後には、欧州最高の半導体研究機関でASMLとも共同研究をしているimecと協業できることになったことも報じられ、ますますラピダスはすごいというイメージ作りが進んでいる。

 しかし、EUの設備を買ったとしてもそこで終わりではない。それを量産化ラインで問題なく動かすまでには大変な調整が必要で時間もかかる。国際技術ジャーナリストの津田建二氏によれば、ASMLはTSMCのために4500人の技術者(現地採用も含む)を台湾に常駐させているそうだ。ラピダスは、ASMLから見ればTSMC、サムスン、インテルなどに比べればほとんど相手にならない新参者。一番後回しになるのは確実で、それだけでもさらに後れをとる原因になる。

 必要な装置はもちろん露光装置だけではない。数十種類の製造装置の組み合わせが必要で、それだけでも大変困難な仕事だ。

 さらに、機械を並べれば半導体が作れると思ったら大間違い。量産化には茨の道が待っているのは前述のとおりだが、それ以前に装置以外にも実は様々なものが必要だ。

 今や数百億個のトランジスタをわずか数平方センチメートルのチップに詰め込むようになったため、そのすべての回路を一からコツコツと開発するということではいくら時間があっても足りない。そこで、設計の自動化を可能にする半導体EDAと呼ばれる設計開発ツールが必要になる。このEDAツールのベンダーは、米国のシノプシス社とケイデンス・デザイン・システムズ社、ドイツのシーメンス社の3社による寡占状態にある。TSMCやサムスンなどのメーカーの異なるラインごとにEDAを開発するのだが、需要がどんどん拡大する一方で、ベンダーには開発余力はほぼないと言って良い状況だ。

 また、最近、脚光を浴びている英国のアーム社(ソフトバンクが所有)のようなIP(機能設計回路)ベンダーが提供する機能部品(回路全体の一部の機能を部品のようなものとして販売する)の重要性もほとんど報じられていない。この世界でも、アーム、前出のシノプシス、ケイデンスの3社寡占状態だ。

 EDAもIPも一つ一つの製造ラインの特性に対応して一つずつ開発することが必要である。ラピダスというこの先どうなるか全く未知数の半導体メーカーのライン用にわざわざこれらの企業がEDAやIPを開発して販売アイテムに加えてくれるとは到底考えられない。そして、そのEDAやIPがなければ、米国のアップルでもエヌビディアでも半導体の設計開発を行うことはできず、従って、ラピダスに半導体製造を発注することもあり得ない。経産省がここを理解しているのかどうか。メディアでもこの話が全く出ないことが不思議でならないという専門家も多い。

 難題はまだまだある。最も重要な要素である人材確保もその一つだ。

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