ラピダス新工場「IIM―1」の模型。9月1日、北海道千歳市にある建設予定地で起工式が行われた。

 もちろん、非常に難しいとは必ず書くのだが、経産省やラピダス幹部の演出が上手いため、どちらかというと、むしろ希望が膨らむような記事の方が多い。

 例えば、日本には先端半導体を製造する技術はないのだが、米国IBMが虎の子の2ナノレベルの半導体を作る技術を提供してくれると報じる。

 しかし、IBMは最先端半導体製造から撤退した会社だ。米国政府は、最先端半導体製造で先頭を走る台湾のTSMC、そのすぐ後を追う韓国のサムスン電子の他に、この2社に敗北した自国のインテルに最先端に再挑戦しろということで巨額の補助金を出すことになった。しかし、IBMは2ナノ半導体の製造競争に参戦する能力はない。

 つまり、米国政府にとって、米企業の最先端半導体製造ではインテルが本命で、IBMにはあまり興味がないのだ。そこで、IBMには日本と組ませて、金は日本に出させて、「万一」うまくいったら、成果を全部もらおうという作戦を採っているようだ。

 それが「先端企業IBMから日本に声がかかった」という話の裏事情だと私は見ている。

 ちなみに、IBMが2ナノの製造技術を持つというのは、実験室レベルの話に過ぎない。一つの完成品チップを人間の体に例えれば、人体は臓器からなり、臓器は組織からなる。そして組織は細胞からできている。IBMの技術は最小単位の細胞(SRAM)レベルで2ナノで作れると証明したという段階にすぎない。ここから先、量産化にたどり着けるかどうかは全くの未知数である。さらに量産化段階に入っても歩留まりを上げるには、長い時間と巨額の資金が必要だ。サムスンは3ナノの量産化に入っているが、歩留まりを上げるのに苦戦し、そのために兆円単位の追加投資をしなければならなかった。あのサムスンでさえ3ナノでそこまで苦戦しているのに、40ナノまでで挫折した日本で、ラピダスという新企業がゼロから始めて2ナノに挑むと言っても、成功すると考える方が無理な話である。

 しかし日本のマスコミは経産省の大本営発表をひたすら垂れ流している。

 例えば、こんな具合だ。

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